(番外編:2003年冬・北海道/オホーツク流氷の旅)

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プロローグ 出発まで

  5日間の夏期休暇を利用して北海道へ旅してから1年半。夏には見られない北海道を楽しもうと、冬季の北海道旅行を企てました。
 冬に北海道旅行が出来るほどの休みは、年末年始の休暇くらいしかないですよね。でも、同じ冬とはいえ、旅行をするなら2月がベストだと思うんです。一番寒い時期であるがゆえに楽しみも多いんです。札幌の雪まつり、道東のタンチョウヅルや白鳥、オホーツクの流氷。ならば、2月に旅行をしよう、と考えたんです。もちろん今回も二人旅。二人ともにスケジュールを調整して、2月8日から4泊5日で12日までの旅行となりました。


 2月7日(金) 第0日目 大阪〜(夜行バス)

 僕の旅行は前夜から始まります。名古屋へ出張中、というのは、もう既にご存知の方が多いかと思いますが、たまたま6日・7日の二日間、大阪で社外研修が入っていたため、旅行の出発は大阪からとなりました。
 大阪からの夜行バスは久しぶりですね。アンコール・ワットへの旅行前となる8月以来の乗車となります。
 格安バスにも関わらず珍しくトイレ付きの2階建てバスだったんですが、寝心地の悪さは相変わらずで、途中での休憩場所となる養老・牧之原・海老名の各サービスエリア毎にきっちりと目を覚ましました。
 でも、さすがに体は眠たかったんでしょうね。海老名からは東京インターでの停車にも気付かず、皇居が見える辺りまで眠っていたようです。


 2月8日(土) 第1日目 東京〜札幌〜(特急まりも) 
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 早朝6時過ぎに東京駅に到着。8時30分の待ち合わせまでにはまだまだ時間があるので、ちょっとだけ電車に揺られて遊んできました。
 東京駅の地下・総武線ホームに戻ってきたのが8時19分。そこからいつもの待ち合わせ場所、八重洲南口改札前まで移動し、彼女の到着を待ちます。
 スロープの手すりにもたれかかり、退屈しのぎのパンフレットに手を伸ばそうとしたちょうどその時、目の前にリュックを背負った彼女が姿を現しました。ふさふさとした襟巻きが付いた暖かそうなジャンパーは、およそ東京の中心部には似つかわしくない出で立ちですが、これは僕だって同じこと。ズボンこそジーンズですが、上はスキーか雪山か、というモコモコしたジャンパーです。
 駅構内のファーストフード店で朝食を取った後、京浜東北線・京急線と乗り継ぎ、羽田空港に到着です。
 
 今日乗る飛行機は日本エアシステムの109便。10時25分発で、千歳空港到着が11時55分の予定です。
 本当はこれよりも30分早い日本航空に乗りたかったんですが、2ヶ月前の予約開始日、数分の出遅れで、はや満席でした。さすがはさっぽろ雪まつり開催中の土曜日ですよね。今年は連休にこそならなかったものの、僕たちのように有休と組み合わせれば、4〜5日の休みは取りやすかったのではないでしょうか。
 
 僕は未だかつて羽田空港から飛行機に乗ったことはなく、これが初めての体験です。降りたことはあるんですが、そのままリムジンバスに乗り込んだんで、電車から降りて搭乗までは方角すら判らなかったんです。
 なんとか辿り着けば、後はスムーズ。JASのチケットレスサービスですから、搭乗手続き用のマシンに、登録したクレジットカードを差し込めば、搭乗券2枚に領収書1枚がセットになって吐き出されます。でも、登録時に僕が入力を間違えたのか、ローマ字をそのまま変換されたのか、僕の名前「KOICHI」が、「コイチ」となってたのはショックでした…。
 
 余裕を持って東京駅を出たつもりだったんですが、品川駅でSUICAが認識されなくてゴタゴタしたりしたこともあってか、搭乗口に着いたら、ほどなく搭乗の開始となりました。
 スチュワーデスに迎えられて機内へと入ります。前に乗ったのは、彼女とではバンコクからのタイ国際航空、社員旅行では昨年11月に香港から日本航空と、いずれも国際色豊かな出迎えだっただけに、日本人スチュワーデスだけの出迎えはシンプルすぎる感じすらしますね。おまけに、放送も日本語だけですし。あ、英語とか中国語でアナウンスがあったとしても、聞き流してますけどね…(笑)
 
 10時25分、羽田空港を急上昇して離陸です。
 すぐに左手の下方にディズニー・ランドとディズニー・シーが見えてきました。なんとなく得した気分です。何なんでしょうね。単なる貧乏性でしょうか…。
 JASのA330型機にはシートの一つ一つに小型のディスプレイが搭載されていて、ニュースや映画等もここで見ることになります。僕達はいつも、寝てる時以外は喋ってますからAV機器は使わないんですが、今回は役に立ちましたね。現在の居場所が日本地図に重ねて表示されるんです。カーナビのようなものですが、山や湖が見えるたびに地図と確認できますから、なかなか楽しいです。
 あれ?これくらいなら、どの飛行機でもあるんじゃないの? と思われるでしょうが、液晶スクリーン等で前方に設置されているものは、ニュースが始まればニュース、映画が始まれば映画しか映さないですからね。ずーっと地図を見たい僕には個々で選択できるシート設置がありがたいんです。贅沢ですけどね。
 その地図を見ながら、
「あのあたりが日光? あれが男体山かなぁ…」とか、
「安達太良山ってもうすぐだっけ?」とか。
 次々と変わるシーナリーに釘付けです。そういえば、関東平野から山地に入ってしばらくした頃、山々が白くなってきましたね。北海道上陸を前に、早くも雪景色です。
 
 それにしても飛行機は速いですよね。東北新幹線の「はやて」が八戸まで走り出したものの、東京からは最速でも3時間弱。飛行機は1時間そこそこで青森県に達してましたから。その青森県のシンボリックな風景、十和田湖は残念ながら雲に覆われていて確認できなかったんですが、そこから数分、津軽海峡が見えてきました。やっぱり速いです。
 遠くに函館の街を眺めながら海上を飛行していると、程なく太平洋から再び大地の上へとやってきました。北海道です。
 苫小牧からやや東側、でしょうか。そのまま高高度で千歳の東側を北へ向かって通り過ぎ、高度を落としながら西へ、南へと方向を変え、11時55分、北の大地、北海道に上陸です。
 
 滑走路脇には除雪された雪が放置され、その雪の固まりに雪国に着いたことを感じさせられます。
 すぐにでも外気を肌で感じたいところですが、新千歳空港は到着ゲートから到着ロビーへと移動した後、そのままエスカレータで地下へと歩けばそのままJR北海道の新千歳空港駅に直結ですから、外気に触れるのは札幌駅到着までお預けです。
 すでにホームに入っていた快速「エアポート123号」は満席です。札幌までは30数分なんですが、立って移動するのも嫌だったんで、ホームの向かいに入線してきた15分後発の快速「エアポート125号」に乗車です。
 発車までの時間を利用して、ホーム売店で「北海道ダイヤ」を購入。北海道エリアだけの時刻表で、学生時代にした北海道鉄道旅行ではよくお世話になったものです。北海道エリアに限って言えば、全国大型の時刻表と遜色ないですから、持ち歩きに便利なんです。今回の行程はほぼ決まってるんで、あんまり必要はないんですが、旅の記念、でもあるんですよね。
 
 地下ホームを12時34分、時間通りに発車しました。「車内で駅弁を食べようか?」なんて話もしてたんですが、それも気が引けるほど、通路にも立ち客が重なるほどの乗車率です。
 右手から旭川方面から続く函館本線が寄り添ってきて、13時13分、3分ほどの遅れで札幌駅に到着です。
 
 今日のスケジュールは、札幌市内で雪まつりを見た後、23時発の特急「まりも」で釧路へと向かう予定なので、それまでリュックをコインロッカーへと収めます。大学を卒業する年、雪まつり最終日にやってきた時はコインロッカーの空き待ちの人が現れるくらいに満室だらけだったんですが、今日は意外にも空きがありました。旅行者の荷物のコンパクト化が進んでいる、ということなんでしょうかね。小さければ特に預ける必要もないですし…。僕ですか? 僕は相変わらず、大きな大きなリュックですよ(笑)
 大きなリュックから取り出した小さなリュックだけになって身軽に出発です。
 
 駅前の通りを南に向かって歩きます。
 人々の活気を感じられるようになると大通公園に到着です。
 さっそく、雪像の観覧です。
 一つ一つ解説をするのも何なんで、あらましだけを。
 まず、駅前の通りを南下して到着した右手にあるのが4丁目。ボンバーマンの大雪像と、その向かいには新生JALグループ製作のミッキー・ミニーとディズニーの新キャラクター「スティッチ」です。
 今年の目玉は、中国の故宮博物院(紫禁城)に日本の江戸城、ペリー来航150年を記念しての黒船とペリー提督といったところでしょうか。
 さっぽろ雪まつりというとこういった大雪像がよく紹介されますが、中小の企業やいろいろな団体・グループが作成した小雪像にもなかなか面白いものがあります。
 僕はディズニーの某キャラクター好き(←これが判ればCLUB CAVALIERの行動記録マニアでしょうね)なんですが、その像の前で写真を撮ったり、彼女は彼女でインド舞踊好きですからヒンドゥーの神、ガネーシャの前で舞踏のポーズをとりながら写真を撮ったり…。二人して変なことをしてました。
 中には意味不明の像もあるんですが、ネタもあったり、面白いですよ。
 ただ、残念…というか、かわいそうなのは、暖冬なのか、雪像が融けかけてるんですね。
 今年の流行りで沢山あった像が「ハリーポッター」なんですが、そのハリーが持っている魔法の杖が溶けて、中の木材で出来た骨組みが見えてしまったりしてるんです。
 さすがに大雪像はスポンサーからのバックアップがいいのか、壊れた部分はすぐに補修できるんでしょうが、こうした小さな像は、期間中、溶けたらそのまま、崩れたらその時点でアウト、という感じですね。僕が前回来た95年の時も暖冬で、一部が溶けて、危ないからという理由で壊されてるのもありました。…そういえば、去年の富士五湖の西湖近くの雪像も溶けてましたね。なぜなんだか…。
 大雪像はともかく、小雪像は時代を反映してか、ハリー・ポッターに限らず、トロや名探偵コナンなんかの比較的新しい人気キャラが多いですね。もちろん、長年の人気者、ドラえもんやスヌーピー、うさぎのミッフィーなんかもたくさんありました。
 
 端まで歩いた11丁目で引き返し、途中にあった休憩所でちょいと休憩です。あわただしく札幌にやって来たため、結局弁当も食べずに昼ごはんが延び延びになってたんですね。そこで、肉まんを頬張ります。飲み物は体の暖まる甘酒。どちらも美味しかったですよ。近くの甘酒販売スタンドに「甘酒は中学生以下の方にはお売りできません」と、中途半端な年齢制限があったのには首をひねってしまったんですが…。
 
 テレビ塔のある1丁目まで歩いて、そこからの行動を悩みました。雪の時計台、赤レンガの旧道庁舎を見るか、雪まつりのもう一つの会場、真駒内へ移動するか、です。前回札幌に来たときは、真駒内会場の閉鎖時間がかなり早かったように記憶しているので、とりあえず確かめてみよう、と地下鉄の駅へ。
 掲示してあるポスターによると、本日は夜の8時まで開場とのこと。結局そのまま地下鉄に乗り込みました。
 タイヤで走る珍しい地下鉄に揺られ、降りたのは「自衛隊前」駅。終点の真駒内駅ではありません。この陸上自衛隊真駒内駐屯地こそが真駒内会場なんです。
 こちらで目を引いたのがギネスブックに登録しよう、というもくろみで作製数を増やし続けている雪だるま。今のところ既に6千数百個が作られているそうですから、ビックリです。12日までの開催期間中にどれだけ作られるんでしょうね(結局、19日間で12,379個が作られたんだそうです)
 こちらの会場内には大雪像、中雪像がドン、ドンって感じで設置されてます。大規模なのが多いのは…、作製が全て陸上自衛隊の方々によるものだからでしょうかね。
 今年は日中平和友好条約締結25周年ということもあり、大通公園会場に紫禁城があったり、こちらの会場には「友好のかけ橋」として人民大会堂を模った大きなステージがあったりします。このステージではいろいろなイベントが行われ、今日も6時15分からの花火打ち上げまで盛りだくさんだそうで…。
 自衛隊のラッパ隊による演奏や、地元で活躍するアーティストのライブなんかがあったり。でも、あの高校時代から活動を開始したという4人組のバンドは(誰でしたっけ?すみません、名前も忘れました)全然知らなかったんですが、若い女の子たちの追っかけがいるほどで、ロープぎりぎりのところでキャーキャー言ったり、ビデオカメラを回したり。僕はと言えば、彼女と顔を見合わせて「知ってる?」「知らない…」と。これは僕達が道民じゃないからか、単に時代についていっていないだけなのか…。
 
 ライブで会場が盛り上がったところでいよいよ本日のクライマックス、花火の打ち上げです。BGMに合わせて、真上を見上げるほどの角度で大輪が花を咲かせました。真冬の花火、いいですね。
 去年の河口湖で見た花火も良かったですが、冬の澄み切った空気に映えるんでしょうか。
 打ち上げ時のドーンという衝撃音と目に入る鮮やかな情景がシンクロするなど、近くでなければ味わえない感動に浸りながら300発の花火を見上げ続けました。
 
 しばし余韻に浸った後、地下鉄に乗り込み、今度はすすきのへ。こちらに雪まつりのすすきの会場があります。大通り、真駒内が雪像がメインであるのに対して、こちはら氷像です。中には北海道の海の幸を氷漬けにした氷柱等の「氷像?」、というものもあるんですが、凝った彫刻を施した白鳥やシマフクロウ、巨大な魚など、いろいろな氷像を楽しめました。
 製造の実演されているコーナーもあって、大きな氷柱を巧みにチェーンソーで荒削りする姿は、職人だなぁって感じましたね。専門職ではないんでしょうが…。
 
 ここから歩くこと数分。やってきたのがラーメンで有名な「五丈原」さんです。「やっぱり並んでるんだろうなぁ」なんて気軽に歩いていけば、店の前には冬だというのに長蛇の列。例え寒かろうが、美味しいものを食べるためには並ぶんですよね。皆さん。
 待つことおよそ90分。ようやく巡り会ったラーメンは、美味しかったですよ。
 暖房の効いた店内で熱いラーメンをすすると額に汗が浮んできます。スープを飲めば頭も体もオーバーヒート。食べ終わっても感嘆の吐息しか出てきません。
 まぁ、後ろに順番待ちのギャラリーがいるんで、あんまり落ち着けない、という雰囲気ではあるんですけどね。
 
 すすきのから札幌まで地下鉄に乗り、JR札幌駅のホームへと上がります。
 出発の10分ほど前になって到着したのは白いボディにラベンダーカラーと新緑をイメージさせるライトグリーンの帯を巻いたディーゼルカーです。ヘッドマークはまりもと雄阿寒岳でしょうか、月と星も描かれた夜行列車っぽいデザインです。
 6両編成で、2号車、3号車がB寝台車、その他が座席車となってます。
 僕達が乗車するのはB寝台の2号車。北斗星以来の寝台車ですね。
 でも、開放型の一般的なB寝台はいつが最後だったでしょう。それこそ、大学時代の冬の北海道旅行で乗車した稚内から札幌までの急行「利尻」以来のような気がします。彼女は…一昨年のゴールデンウィークに山陰から東京へと帰る時に乗った寝台特急「出雲」ですかね。なぜか僕は松江駅で見送ってたんですが(笑)
 
 久しぶりのB寝台に興奮気味になりながら、いろいろチェック。僕達は6番の上下段だったんですが、向かいの下段では、はやおじさんがシーツを敷いて寝る準備です。でも、発車するなり、弁当を食べ始めたんですけどね。いや、他人のチェックはどうでもいいです。
 23時の定刻を、函館方面からの特急の遅れを受けて、数分の遅れで発車しました。
 
 梯子で上段に上ったり、枕もとの電灯を点けたり消したり…、って子供ですね。
 発車しておよそ30分、南千歳駅に到着です。ここで向かいの上段にも新たな乗客が。2月といえども、結構な乗車率ですよね。
 もっとも、この特急「まりも」は冬季限定で、B寝台料金が通常の6,300円の半額以下、3,000円で利用できるというサービス中ですから、シートで寝るよりもわずかな追加でベッドに寝転がって移動できるというので人気があるんでしょうね。
 
 12時を過ぎ、追分駅に着くかどうかという頃におやすみです。
 
 
 2月9日(日) 第2日目 釧路〜摩周湖〜川湯温泉〜網走

 新得や帯広停車にも全く気付かず、携帯電話のアラームで目覚めたのは5時20分、白糠駅停車の直前です。
 釧路到着は5時50分と早く、そろそろ下車準備ですね。
 彼女を起こした後、浴衣から着替え釧路駅到着を待ちます。
 
 5時50分、定刻に釧路駅ホームに到着です。
 駅構内の洗面所で身支度を整えて、スッキリしたところで、さてどうしましょう。冬とはいえ、道東の釧路はこの時間でも既に薄明るいんですよね。でも、明るいというのと街が起きているというのは別で、駅前はまだまだ閑散としています。
 どこかで朝食を取ろうと考えていたんですが、街はまだ寝静まったまま。駅構内の軽食屋は開いていたんですが、モーニングセットらしいものがなかったんで、7時開店のミスタードーナツを候補にし、それまで駅の待合室で休憩です。
 
 7時になり、お店に入る前に、まずは阿寒バスのバスターミナルへ。今日のスケジュールは釧路駅を8時40分に出発する観光バス「ホワイトピリカ」で道東の景勝地を巡り、摩周温泉駅で下車、そこからJR釧網本線で網走へ、というルートを辿る予定です。今回の旅行で、事前に予約が必要なホテルや飛行機などは、既に手続きを済ませていたんですが、この観光バスだけは予約制ながら予約を入れてなかったんですね。それは、十分に席があるだろう、という判断だったんですが、確認の意味を込めてバスターミナルへと来たんですが、窓口の女性に尋ねてみれば、なんら問題ないとのこと。念のために予約を入れて、ミスドへと戻りました。
 
「朝から甘いのを二つも?」と気にする彼女の目の前で、ドーナツを口に運びます。スイートは僕のエナジーですから… (^_^;)
 アメリカン・コーヒーのお代わりなんかをするうちに時間も流れ去り、8時過ぎにターミナルへ。
 摩周温泉までの「ホワイトピリカ号」のチケットを購入し、「ひがし北海道」と書かれたパンフレットをもらいました。広げれば大きな一枚モノで、折り畳まれているんですが、道東の絵地図になっています。
 それと一緒に渡されたのが乗車整理券。バスの乗車順を決める整理券とのことで、予約順に1番から割り振られているようです。僕達が手にしたのが3番と4番。そんなもんです。
 
 8時40分の定刻に出発した観光バスは、駅前の北大通を南へと走り、フィッシャーマンズワーフMOOと釧路プリンスホテルに停車し、途中乗車のお客さんを拾っていきます。最終的に乗り込んだのが僕達を含めて11名でした。
 釧路へ来るまでに「観光バスも50人乗りのバスに10人くらいなんじゃない?」なんて彼女には話してたんですが、結局そんなものでしたね。僕の想像が当たるならば、明後日に乗車する紋別から稚内までのバスは乗客6名、なんですがどうでしょうかね。
 
 釧路市郊外を走ります。右手には釧路湿原が広がっているはずです。
 走ることしばし、最初の観光地「釧路市湿原展望台」に到着です。
 3階にある展望フロアからは一面の白い平原が広がっているのが見えました。ここからの眺めはあんまり湿原らしさを感じさせないんですね。これは一昨年の夏にも思ったことなんですが、広大な湿原を楽しむなら湿原をはさんだ向かい側、東側の細岡展望台がお勧めです。もっとも、冬の間はどこから眺めても「湿原」らしくはないでしょうけどね。
 前回は素通りした2階の展示コーナーを見学です。きれいな湿原の写真がパネルになっていて楽しめます。幻の魚と謳われる生きた「イトウ」もいます。「イトウさーん」と呼びかけてみたり… (^^ゞ
 
 次は鶴居村にあるタンチョウヅルの飛来地、鶴見台に移動です。
 鶴の居る村で鶴居村、いいネーミングですよね。アイヌ語由来の地名の多い北海道の中で、日本語でわかりやすい地名です。
 バスが駐車場に停まる直前、数羽のタンチョウヅルが上空を飛んできました。バスの窓からその姿を眺めます。ワクワクしてきますね。
 鶴の居るエリアに近付くと、目の前に十数羽のタンチョウが姿を見せました。ここは自然界の餌が少なくなる冬場の給餌場で、午前と夕方の2回、餌を与えているんだそうです。普段は釧路湿原に流れる川で生活をしているそうで、食事時にこちらまで飛んでくるんだとか。タンチョウヅルというと冬の鳥、という感じがしますが、夏には人目につきにくいところで生活をしていて、ごく稀に釧路湿原で野生のを見かけることが出来るんだそうです。
 草原の緑をバックにしたタンチョウは一昨年も見ましたが、やっぱり冬、それも雪原に舞うタンチョウがいいですよね。
 数羽があわただしく鳴き声を上げ始めると、空から数羽のタンチョウが舞い降りてきました。仲間に所在を知らせてるんですかね、鳴き声が聞こえるたびにタンチョウが滑空してきて結構な大所帯となってきました。
 バスに戻るために移動していると、頭の上を4羽ほどが編隊を組んで飛んでいきました。雪原もいいですが、雪の舞う大空を優雅に飛ぶ姿も捨てがたいですね。いいシーンが見られました。
 
 ここからは1時間ほどバスに揺られます。
 鶴居村から標茶町を経由して弟子屈町へと入ってきました。
 ここにある900草原が次なる目的地です。
 900草原は町営の牧場で、冬の間、牛を放牧しないので観光客に開放しているんだそうです。晴れていれば摩周岳や硫黄山、雄阿寒岳、雌阿寒だけを眺められるらしいんですが、今日はあいにくの雪。眺望を楽しむのは難しそうですね。ならば…と、ここでの楽しみの一つにソリ遊びがある、とガイドさんの説明だったんですが、あんまり遊ぶ時間もなさそうですし、調子に乗って下まで滑っていったら出発時刻に間に合いそうもないんで諦めました。リフトやゴンドラなんかはないですからね。
 で、どうしたのかというと雪の上に転がってみたり、彼女に雪の固まりを投げてみたり。このあたりの雪は水分が少なくて両手のひらで丸めてみても、すぐにパラパラと崩れてしまうんですね。ですから当たってもそんなに痛くは…、あっ、反撃喰らった (^_^;)
 
 あっという間に時間が過ぎ去り、最後にバスに乗り込みます。次はいよいよ摩周湖・第一展望台です。
 
 摩周湖は摩周岳のすぐそばにあるカルデラ湖で、カルデラの淵から湖面を見下ろすように展望台があります。この湖は湖面には近付けないんですね。それゆえ、夏の霧の濃い時期は湖面すら見えなくなります。前回がほぼそういう状態でしたよね。
 で、今回は…。
 駐車場に到着してガイドさんが展望台に登るのについて行って湖を見ると、…み、見えない。
 霧ではないんでしょうが、雪混じりの空気なんでしょうかね。吹雪のときに前方が見えないのに近いんでしょうか。
 2回続けて湖面がはっきりと見えない摩周湖にやって来て、がっかり気味の彼女ですが、今日は天気が悪いですからね。またいつか、リベンジに来ましょう。
 第一展望台のエリアの中にもいくつかの眺望スポットがあり、少し北寄りの展望台に移動します。こちらの方も100メートルと違わないので状況は似たようなものですが、うっすらと、本当にうっすらと湖に浮ぶ小さな島、カムイッシュ島が見えました。これだけでも上等です。
 展望台の下にあるレストハウスに入ります。
 これが、あれ?と思うほどに変貌してました。土産物売場もそうですが、フードコーナーもすっかりと変わってます。食券の販売機までありますからね。そこで「あげいも」と「いもだんご」の食券を買って2本の串を手にしました。これが美味しいんですよね。甘いタレにひたった団子がなんともいえない食感なんです。来るたびに食べている逸品です。
 
 バスの発車時刻が近付いていたんですが、念のためにもう一度展望台へ。でもやっぱりだめですね。到着した時とほとんど同じでした。
 ここから第三展望台を経由して川湯へと続く道は冬期閉鎖されているので、もと来た道を引き返して、遠回りして川湯温泉へ。
 次の景勝地は硫黄山です。
 バスが停車する前から硫黄臭が漂ってくるのは毎度のこと。降りるとますます硫黄の匂いが強くなります。
 あちこちから硫黄分を含んだ蒸気が噴き出しているだけあり、地表が熱いんでしょうね、この山肌だけが雪を残らず溶かしています。噴き出す蒸気に包まれてみれば、お風呂の蓋を開けた時のような暖かさで、寒いこの時期にはとても気持ちよく感じます。もっとも、普通のお風呂じゃ、こんな匂いはしないでしょうけどね。
 温泉地につきものの温泉たまごを売る兄さんたちが居ました。この光景も毎度のことです。昨年10月の大涌谷、先月の草津と最近温泉たまごづいているんですが、ここではなんとなくパス。すれ違ったアジアの国からの観光客はこの光景に喜んでいるようでしたね。買って食べたのかどうかは知りませんが…。
 
 バスに戻ったところでガイドさんが、下車地の確認に来られました。僕たちは摩周温泉で下車し、摩周駅からJRに乗って網走へ行くつもりなんで、そのことを説明すると、このバス内に他にも同じように網走に行かれる方がいらっしゃるんだとか。なんでもその方たちは次の観光地の砂湯でバスを降り、タクシーで緑駅へ走られるんだそうです。そうなんですよね。緑駅からは網走へちょうどいい列車が走っているのに、手前の川湯温泉や摩周駅からは1時間以上も後の列車しかないんです。というか、摩周駅から網走へと向かう列車は、僕たちが乗る予定の17時05分発の前が10時18分発なんです。緑駅からはその間に2本出ているのでタクシーで間をつなぐ、ということなんでしょうが、遠いんじゃなかったでしょうか。
 後でガイドさんに聞いた話では砂湯から緑駅まで、タクシーで1万円ほどとのこと。やっぱりね。
 僕たちは急ぐ身でもないんで…、ということで摩周温泉に入ってみようということに。ガイドさんに摩周温泉で日帰り入浴できるところは?とか聞き、調べてもらうことになりました。
 そうこうしているうちにバスは最後の観光地、砂湯に到着です。
 
 
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砂湯と言えば赤い1番さんですよね(…知る人ぞ知るネタですかね、今となっては)。
 この時期、砂湯のある屈斜路湖はほぼ全域が氷で覆われています。真っ白の湖です。でも、この砂湯付近だけは水面が見えてるんですね。それもそのはず、この辺りの湖水だけが暖かいんです。湖に面する砂浜を掘り起こせば熱い温泉が湧き出てきます。それが砂湯の砂湯たる所以ですが、この温かな水を求めて白鳥が集まってきています。白鳥の湖です。
 
 砂湯には一昨年の夏にも訪れているんですが、その時になかったものがあります。「足湯」です。最近のブームなんですかね、足湯。靴下を脱ぐだけで入れる手軽さがいいんでしょうか。
 バスの出発時刻まで、ちょっとだけ時間を残してバスに戻りました。この先、バスに乗り続けるのは僕たち二人と、釧路まで戻る方だけです。ガイドさんが近付いて来られました。
 摩周温泉で日帰り入浴が出来るところの案内です。でも、ガイドさんと運転手さんが口をそろえて言うのが、温泉に入ってから列車までの時間をつぶすなら、摩周よりも川湯の方がいいよ、と。川湯は温泉街なんでそれなりの遊び場所があるけれど、摩周は何にもないんだそうで…。
 あと数分で川湯温泉へ行く路線バスが発車するんですけど、どうされます?と畳み掛けられて、じゃぁ、川湯に行きます、と。
 シートに放り出していたリュックを担いで川湯温泉行きのバスに乗り換えました。
 ガイドさんが、路線バスまで案内してくれて、おまけに運転手に「日帰りで入れる温泉に行きたいそうなんで、どこかで止めてあげて」と。さすがは同じ阿寒バスですね。とはいえ、温泉に入れる宿は終点に密集してるようなので、川湯温泉までお世話になることになりました。川湯温泉までの料金を支払って発車を待ちます。
 
 まもなく出発か、という頃に運転手さんが「(ガイドさんが言うには)もらい過ぎているらしいんで…」と、さっき支払った川湯温泉までの料金を返してくれたんです。確かに摩周温泉までのバス代を支払っていましたけど、それはそれ、これはこれ、と思ってましたからね。阿寒バス…いい会社です。アカンなのに。
 
 10分ほどで川湯のバスターミナルに到着し、そこから日帰り入浴の出来る宿へと歩きます。
 やってきたのは「川湯観光ホテル」。もたいまさこさん似の愛想の良すぎるフロント係に二人分の温泉利用料1,400円を支払って館内へ。1時間ほど後を待ち合わせの時間にして、僕は2階の男湯へ、彼女は3階の女湯へと別れました。
 露天風呂のある広々とした大浴場で、すっきりとリフレッシュです。
 「川湯温泉」は、硫黄山と同じく硫黄泉で、当然ながら硫黄の香りがしますが、温泉に浸かりながら嗅ぐ硫黄の香りは嫌気がしないんですよね。温泉は無色無臭よりも、匂いがあったり濁っていたりした方が効能がありそうな気がするもんで…。
 
 でも、熱い温泉と暑いサウナに浸っていると頭の中がポーっとしてきました。露天風呂で冷たい空気に包まれても、冷たい水を浴びてもダメ。気持ちよく温泉に入るのも、程々にしておきましょう。
 約束していた時間よりも5分ほど早めに、待ち合わせのロビーにやってきて、椅子にもたれ掛かりました。温泉に入ったのにバテてます。気持ちは良かったんですけどね。
 
 待ち合わせの時間から少しだけ遅れてやって来た彼女と、ちょいと休んで川湯観光ホテルを後にしました。
 川湯温泉駅からのJRに接続する駅前行きのバスの発車までには、まだしばらくあるので、川湯エコミュージアムセンターへ。ここは川湯温泉周辺の環境について勉強が出来る施設で、この近辺で見られる動物、植物の様子がよくわかります。
 松かさや木の枝で自由に工作が出来るコーナーなんかもあり、その気になればじっくりと楽しめるんでしょうが、そこまでは時間がないのでさらっとだけ見学して出てきました。
 西洋カンジキと呼ばれるスノーシューをレンタルもしているらしいのですが、雪の上の散策なんかが出来ればもっと楽しかったかもしれないですね。
 
 バスターミナルに戻り、バスに10分ほど揺られて川湯温泉駅に到着です。
 意外にも駅の待合室には列車に乗るために、僕たちを含めて10名近い客が待っています。もっと少ないかと思ってたんですけどね。釧路からやってくる列車だけに、どれくらいの乗客がいるのか見当がつかないんです。網走までの1時間30分、立つのはちょっと厳しいですからね。
 完全に日の沈んだ17時22分、南の方から網走行きの列車の到着です。列車とはいえ、ディーゼルカーが1両のみのワンマン列車です。バスでおなじみのワンマン運転ですから、入口のドアで整理券を受け取って車内に入ります。車内放送は女性の声のテープ案内です。
 温泉宿やホテルに着くにはちょうどいい時間なのか、観光客らしい姿の人々が結構下車し、運良く、二人並びのシートに座ることが出来ました。これで安心です。
 17時22分、定刻に発車。思った以上に地元の方々の姿も多く、妙に車内が静かなんです。観光客が多い列車はにぎやかになりがちですよね。その反対ですからいたって静か。というか、二人で喋るのにも気を遣うほどなんです。気分的には夜汽車ですね。
 川湯温泉駅を出てから20分近く走り続けて、ようやく隣駅の緑に到着。そりゃタクシーで1万円はかかるはずです。この列車が網走駅に到着するのは、18時49分ですから、到着後の予定が何もない僕たちにはこの選択で良かったんですよね。立派な温泉にも入れましたし。
 知床半島への入口となる知床斜里駅を出てからは、車窓右手にオホーツクの海が広がっているはずなんですが、既に真っ暗で、何一つ見えません。これが、夜汽車の雰囲気をかもし出すのを手伝ってるんでしょうね。
 
 夜汽車の雰囲気を味わっていると、いつの間にかウトウトしていたようで、気がつけば網走も近くなっていました。
 18時49分、定刻に網走駅に到着です。
 
 改札口で整理券と運賃を差し出し、網走の街に立ちました。
 駅前広場にある地元の高校生作のかまくらを眺めながら、本日宿泊の北海ホテルへと向かいます。
 
 チェックインを済ませてから、食事をするために外出しました。
 向かった先は駅へと逆戻りになるんですが、一昨年に訪れた「麗門亭」さんです。久しぶりの訪問にワクワクしながら2階にある店舗への階段を踏みしめました。
「いらっしゃいませ」
 と迎えられたんですが…。あれ? スッキリしてる…。
 壁一面に旅行者が旅の思い出を画鋲で留めてあったんですよね。僕たち二人も旅行の思い出にと網走までのJRのきっぷにメッセージを添えて壁に貼り付けたんですが、今はロッジ風の丸太を組み合わせた壁が姿を現しています。
 注文を取りに来たお姉さんに聞けば、昨年の11月にオーナーが代わったそうなんですね。それまでの品々は保管してあるとのこと。他の人のきっぷや定期券に書かれたコメントを見るのも楽しみだったんですけどね、その楽しみがなくなった分、ちょっと残念です。その代わりに、各テーブルには何でも書けるノートが置いてありました。
 彼女と一緒にパラパラとページを繰っていたんですが、やはり「驚いた」というコメントが多かったですね。それだけリピーターさんが多いということなんでしょう。僕たちも一緒に、ノートに落書きをしてきました。いつの時点で新しいノートに変わってしまうかは判りませんが、お暇な方は探してみては?
 
 ちょっと残念ではあったんですが、カツカレーの味は相変わらずの美味しさだったんで、ある意味安心しました。これからも頑張ってもらいたいですね。


 2月10日(月) 第3日目 網走〜紋別


 今日の朝は早いんです。8時20分に網走駅前を発車するバスに乗車予定です。
 身支度を済ませ、7時50分頃にフロントでチェックアウト。その時に、駅前に行った方がいいか、バスターミナルに行った方がいいかを尋ねてみたんです。バスはターミナルを10分に出て、20分に駅前を通るんですが、近いのならターミナルまで歩いてみようと思ったんですね。そしたら、フロントの方も、ターミナルに行った方が待合室もあるし、いいんじゃないですか?と。
 歩いても7〜8分とのことで、大差はないようです。
 時間的にも間に合いそうなのでバスターミナルへ移動です。途中のコンビニで朝食用のパンを買い込んで、網走バスターミナルへ。
 そしたら、ちょうどバスの改札が始まったところだったんです。
 係員に案内されるままに二人でバスに乗り込み、後方寄りの右側に並んで腰を下ろしました。
 
 このバスは網走発紋別行きの「オホーツク流氷ロードバスしんきろう号」です。流氷の時期の期間限定の運行で、網走と紋別の間を1日に2往復走っているそうです。
 定刻に乗客数名を乗せて発車しました。
 路線バスでありながらガイドさんが乗車していて、経由地の案内をしてくれるところが面白いですよね。単に停留所の案内だけではなく、観光の案内をしてくれるんです。観光バスではないので下車しての観光はないんですが、右に左に流れ去る車窓の風景をリアルタイムに解説してくれます。
 僕達が乗車予定だった網走駅で、数組の観光客が乗り込み、十数名で紋別へ向けて出発です。
 
 駅を出るとすぐ右手に網走川、その向こうにレンガ塀の網走刑務所が見えてきます。ここには一昨年にも入りましたね…、いや、訪れましたね。入っちゃダメです。
 さらに走れば左手に網走湖が見えてきます。こちらも夏に眺めたところですが、北海道の夏と冬とは大違いですね。一面真っ白です。ところどころにテントが見えたり、人の姿が見えたり。冬はワカサギ釣りの格好のスポットらしいです。
 今回の僕たちの旅行は主にSeeが目的なんですが、Doの旅行もしてみたいですよね。冬の北海道はいろいろと遊べそうです。
 
 程なく右手には能取湖が見えてきます。当然のようにこちらも真っ白の大雪原です。
 9月のサンゴ草がオレンジ色の絨毯を敷詰めたようになるという光景をぜひ見てみたいものです。サンゴ草の大群生地として能取湖は有名なんですよね。また、来ましょう。
 
 常呂で最初の休憩があった後、コンビニで買ったパンをかじります。
 バスは紋別へ向かって走り続けているんですが、時折見える海に、流氷が見当たらないんですね。ガイドさん曰く、「今日はかなり離れている」んだそうです。
 僕は、流氷っていうものは1月中に接岸すれば、3月まで居座るものかと思っていたんですが、それは知床半島の先端の方の話で、網走から紋別、さらに北へと続くオホーツク海沿岸は、西からの風が吹けば、かなりの勢いで離れていくんだそうです。逆に東からの風が吹けば近付いてくるんですね。
 どうも、昨日あたりから、観光客にとってはマイナスとなる北西の風が吹いているそうで、かなり離れているようです。風の強さにも依るそうなんですが、1時間に1kmほどは平気で動いたりするんだとか。かなりの速さですよね。
 
 右手にサロマ湖が広がってきました。サロマ湖は琵琶湖、霞ヶ浦に次いで全国で3番目の大きさの湖です。でも、これが見事に凍ってるんですよね。こちらも一面の大雪原です。スノーモービルが走った跡がきれいに見えます。ここで、サロマ湖鶴雅リゾートに停車です。
 浜佐呂間町からも若いカップルが乗車してきました。ガイドさん曰く、滅多に乗客のいないバス停なんだそうで…。大きなリュックを背負った、活発そうな二人組です。
 もう一箇所、サロマ湖温泉緑館で数組の観光客を拾うと、網走でガラガラに近かった車内が満席に近くなってきました。ここまで、ガイドさんの承諾も得て、空いてる席にリュックを放り出していたんですが、さすがにアウト。網棚にリュックをねじ込みました。
 ここからは、目的地の紋別まで一直線です。
 
 1時間ほどバスに揺られ、紋別に近付いてきました。海には沿岸からやや遠いとは言いながらも流氷の姿が見えます。本物の流氷です。ガイドさんの話では、流氷砕氷船「ガリンコ号」は、流氷が近辺に見られなければ、少々航行時間を延長してでも沖に出て、流氷の傍まで行ってくれるそうですから、十分に流氷の間近に行けそうです。もっとも、1時間に1kmの速さで離れていってるならば、少々きついものはありますけどね。僕たちが予約しているのは今から3時間近く後の1時30分発の便です。
 カニの爪のオブジェが見えてくると、紋別のもう一つの中心地、ガリンコステーションに到着です。
 
 とりあえず、餅は餅屋、とばかりにガリンコ号の案内所へ急ぎます。流氷の情報ならここで揃うはず。受付嬢に現在の状況を聞いてみると、流氷は接岸していないものの、ガリンコ号はその傍まで行っている由。1時30分の便でも何とかなりそうですね。
 少しだけ安心して港へと出てみました。まもなく出航するガリンコ号の乗船が始まっています。
 
 ガリンコ号とは、名前が表す通り流氷を2本の大きなドリルでガリガリと砕きながら突き進む流氷砕氷船です。僕も8年前に乗ったことがあるんですが、その時乗ったのが「ガリンコ号」、今のは正式名称を「ガリンコ号II」といい、グレードアップしているそうなんです。それだけに楽しみです。
 11時ちょうどに出る船が、尖端のドリルを回転させ始めました。港内は結氷していて、小さな氷が船体を取り囲んでいるので、回転するドリルに当たってシャリシャリと音を立てています。このドリルが大きな流氷を砕くんですよね。乗りたい気持ちを抑えつつ、出航していく後姿を写真に収めました。
 
 今から出航まではまだ2時間以上あるんで、とりあえず近辺の散策をします。
 ちょうど「もんべつ流氷まつり」というイベントが開催されていて、大きな雪像や氷像が見られるそうなんです。
 港から歩いて数分のところにある広場には、多くの観光客や地元の方がいらっしゃいます。
 大きなトトロの雪像や、ドラえもんのいる竜宮城、なぜか大阪にある中央公会堂の大きな雪像もありました。等身大くらいの氷像もたくさんあり、一つ一つひやかしながら見て歩きます。大雪像はさすがに自衛隊作ですが、小さいのはグループや会社、商店等が作っていたりして、アイデアも面白いのがありました。自動車整備会社が作成した氷像はドアを開けたオープンカーで、もちろん氷のシートもありますから、観光客が座って写真を撮りあったりしてます。僕たちも「撮ってみる?」とか言ってたんですが、横には「作品にはお手を触れないでください」と…。
 
 港の近くまで戻り、ゴマちゃんランドへ。
 判り易すぎるネーミングですが、ゴマちゃんがいます。ゴマフアザラシですね。去年から今年にかけてはゴマちゃんよりも横浜市民のタマちゃんの方が有名になってしまいましたが、タマちゃんはアゴヒゲアザラシですよね。
 200円の入場料を支払って中に入ると、ちょうど給餌の時間が始まるとのこと。飼育係のお姉さんが魚の入ったバケツを持って登場です。大小いくつものプールからなるこの施設ですが、どこのプールで餌を与えるのかと思えば、なんとプールに囲まれたスペースにゴマちゃんを呼び出してくれるんだとか。僕たち観光客のすぐ目の前、それこそ触れ合えるところで餌をあげるんですね。
 プールへとつながる扉を開けば次から次へとゴマちゃんが上がってきます。
 単に魚を食べさせるだけではなく、僕たちギャラリーに手足のひれや、耳、歯などを見せてくれ、普段なかなか見られない勉強にもなりました。飼育係のお姉さんが後ろ向きに歩いている時に、ゴマちゃんにつまずいてひっくり返るというハプニングもありましたが、ウケを狙わないアザラシの行動のユーモラスさにとても楽しめました。
 彼女は真ん前にやってきたアザラシの背中を直接触ったようなんですが、ひとこと「剛毛…」と。
 確かに毛は硬いそうです。
 
 ちょっと早いんですが、港へと戻ります。
 彼女からもらったちょこっと早めのチョコレートを頬張りつつ、待合室で出航までの時間を待ちます。その間にチケットを買いに行ったんですが、オホーツクタワーと同時に購入することで割引になっているそうです。ガリンコ号は、この港を出て同じ港に戻ってくるんですが、帰りにオホーツクタワーの真ん前の港にも寄るそうで、そこで下船すれば便利なんだとか。
 
 ちょっと早いかと思うんですが、1時を回るか回らないかという頃にベンチを立ちました。この時点から乗船のために並ぶのはよほどの物好きだけと見え、僕たちの前には4人連れの親子しかいません。で、なぜにこんな早くから並ぶのか、というとキープしたい場所があるからなんです。それは、2階の最前部。乗客として立ち入れるうちの最も船首側で、ガリンコ号の心臓部、ドリルが見える位置なんです。これがなきゃただの船ですからね。ここを見たいところです。
 12時15分に出航していった船が、オホーツクタワーの前に停船しているのが見えます。
 動き出すこと数分、港内へと入ってきました。
 
 ワクワクしながら乗船開始を待ちます。後ろには100人近い行列が出来ています。というか、最後尾はターミナルビルの中ですから見えないんですけどね。
 で、いよいよ乗船。二人して、先を争うように2階のデッキへと急ぎます。
 が…。あれ、後が続かない…。
 ほとんどの方が、ガラスをはめ込んだ1階席か2階席のシートに落ち着かれてるようです。デッキには僕たち二人の他に、立派な一眼レフカメラを携えたカメラマンっぽい人が数名。でも、いずれもが後方寄りで、最前部には僕たちだけです。
 乗船開始から数分、ようやく席に溢れたのか、単なる物好きか、デッキにも観光客の姿が見えてきました。
 
 眼下に見えるドリルがくるくると回転を始め、13時30分、かもめと寄り添いながら出航です。
 港の中には凍った氷もあるんですが、防波堤からオホーツクの外洋に出れば、とたんに真っ青な海になります。遠くに流氷のような白い陸地が見えるんですが、ちょっと距離がありそうです。
 正面から吹きつける風は、寒いながらも期待が体温を高めているのか、心地よくさえ感じます。
 しばらく走ると海面に氷の粒が見え出し、次第にその固まりが大きくなってきました。流氷本体に近付くのももうすぐです。
 
 ついに流氷の本体にぶつかりました。感動の場面です。
 小さな氷は当たった衝撃で弾き飛ばされるんですが、大きな氷は回転する巨大なドリルがガリガリと割っていきます。
 流氷の本体と言っても、北極のような巨大な氷の固まりではなく、大きなものでもせいぜい数メートル四方で、それらが密集している状態を本体と言うようです。
 このような集合体が、辺り一面に広がっているんです。これを感動せずにはいられないですよね。
 条件が良ければ港を出てすぐにこの状態に対面できるものの、沖へ出てでも体験できた今日は恵まれた方でしょうね。2月といえども流氷が全く見られない時もあるそうですから。
 
 船はしばらく流氷の真っ只中をかき分けながら進みます。彼女も僕も口数が減ったのは感動してるからなんでしょうね。
 いい体験が出来ました。
 
 流氷群から離れて港へと戻ります。流氷を沖へ追いやる西風をまともに受ける帰路は、時折波しぶきが飛んでくることもあり、冬のオホーツクの荒々しさを感じます。
 流氷から離れて現実に戻ったからか、西風が強いからか、顔に当たる海風がやたらと冷たくなってきました。
 そうこうしているうちにオホーツクタワーに到着。入口のロビーにあったストーブで凍った顔を癒しながら、ほかほかの石焼き芋を頬張ります。体が温まったところでタワーの展望フロアへ。
 順路は下から上へ、ということらしいのですが、タワー好きというか高いところ好きの二人ですから、まずは上です。
 
 オホーツクが目の前に広がる景色は、残念ながら青い海です。ちょうどガリンコ号が港から沖へと出て行くところでした。
 2階のホールへ。ここは展示室になっていて、流氷に関する知識や、オホーツク海に生息するクリオネの生態が判るようになっています。
 ここで過去の流氷のレーダー画像を見ていると、スタッフのおじさんに声をかけられたんです。学芸員のような方で、いろいろとお話を伺いました。
 数日前は岸近くまで流氷があったことや、去年はほとんど流氷らしい流氷が見られなかったこと、ガリンコ号の性能なんかの話を楽しく語って頂きました。紋別のガリンコ号と並ぶ有名な砕氷船、網走のオーロラ号はもともと知床半島のウトロ近辺で流氷観光のために計画されたものだったらしいんですが、知床の流氷が厚すぎて砕けなかったんで、比較的薄い網走近辺で航行してるんだとか…。ガリンコ号も性能はほぼ同じで、厚さ60cmほどの氷を砕くのがやっとのことらしいですね。それ以上の氷を裂いて航行できるのは南極観測船の「しらせ」とかでないと…、とのことです。「ガリンコ号も、薄いところを狙って走ってるんですよ」と。あんまり聞かないウラ話ですよね。
「そうそう、今日は流氷がないのにクリオネが流れてきてるんですよ。見ました?」
 と。地下1階の海底自然観測室は周りにガラスの窓があり、海底の様子が見えるんです。そこから自然のクリオネが見られるらしいんですね。さっそくエレベータで降りようとすると、一緒に探しましょう、と付いて来て頂けました。
 窓の一つに陣取って彼女と一緒に探してみるも、そうそう見つかるもんじゃないんですよね。
 窓を移ったり、スタッフの方の「いましたよぉ」という声に駆け寄ったり。
 駆け寄ったときには、もういないんですよね。クリオネは羽で優雅に泳いでいるように見えるんですが、潮に流されてるだけなんですよね。だから、見えた窓の隣の窓で待機です。
 格闘すること数十分。いましたいました。透明な体から延びた羽をひらひらさせながら僕と彼女の目の前を流されてます。
 水槽で飼育されたクリオネを見たことは何度かありますが、自然の海を泳ぐ姿は初めてです。どうやら今日はかなり特別の日のようです。自然のクリオネを見られることは滅多にないみたいですね。
 いろいろと教えてもらったおじさんに挨拶をしてオホーツクタワーを後にしました。
 
 タワーからガリンコ号ステーションまで、送迎用の電気自動車で送ってもらい、そこから紋別市の中心地にあるバスターミナルへと向かうバスに乗りました。
 数分乗車して「港町8丁目」で下車。今日はこの目の前にある紋別プリンスホテルに泊まります。
 
 チェックインを済ませて、まずはご自慢の天然温泉へ。泉質は記憶の彼方ですが、ややぬめっとした感じがします。体を休めるのにいい湯加減です。お湯の付いた体は手で触れると肌が活き返ったようにスベスベです。温泉で一息つけるのは何事にも代えがたい幸せですよね。
 日の落ちた中で、大浴場に隣接する露天風呂に入ります。顔に当たる冷気と体の火照りが対照的で気持ちいいです。
 サウナに入ったり、その体を露天風呂の外気で冷やしたり。二日続けて温泉に入れるのは嬉しい限りです。
 
 あまりの気持ちよさに長居をしてしまい、待ち合わせをしていた大浴場前の休憩室では彼女がマッサージ機に揺られて遊んでました。風呂上りのマッサージ機、それと横にあるゲームコーナー。典型的な日本の温泉宿スタイルですね。
 さて、温泉の後は…。
 お待ちかねのカニ料理です。エビ・カニの刺身から始まり、カニ味噌を練りこんだ豆腐、カニ茶碗蒸し、蟹しゃぶ鍋、蟹の天ぷら、それに蟹のセイロ蒸し、と盛り沢山です。
 こんなに蟹を味わったのは初めてです。
 蟹しゃぶなんて生まれて初めて食べました。いや、天ぷらだってそうです。北海道に来てよかったな、と思いましたね。
 僕たちにしては珍しく豪華な料理となりました (^_^;)
 
 メインのセイロ蒸しに手をつける頃には、既に十分にお腹が満たされていたんですが、二人で一匹の蟹には当然ながら真ん中に甲羅が付いてます。男性スタッフの方が頃合を見計らって食べやすいようにツメと脚を二人に取り分けてくれます。残った甲羅ですが、
「そのままお召し上がり頂いても結構なんですが…」
 の後に続いた言葉に引かれました。この甲羅を使って、中の美味しい蟹味噌を一緒に炊き込んで「甲羅飯」を作ってくれるというんです。でも、そろそろ、食べきれるかどうかの心配が必要になってきそうですね。
 
 蟹の味を十分に味わって、最後にデザートのアイスクリームを頂けば、もう動けないくらいです。
 ごちそうさまでした。
 でも、実はまだ、手を付けていないお皿があるんです。それが「握り寿司」。蟹の身を握ったものを含む6カンのお寿司は、スタッフの方にラップをかけてもらって「お部屋でお召し上がりください」と。
 なかなか気の利いた配慮です。握りの乗ったお盆を両手で持った彼女とエレベータで部屋へと戻りました。
 
 窓際の棚にお寿司を並べてみたものの、さすがにすぐにはつまめません。無理をすりゃ入るかもしれませんが、同じ食べるなら美味しく頂きたいですからね。お腹をすかせに、もう一風呂浴びに行きましょうか…。


後半へ続く

(2003年冬・北海道 前半・終わり)

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