(番外編:2002年夏・カンボジア/アンコール・ワット)

長い文章ですので、常時接続でない方は一旦接続を切られた方がよろしいかと思います。


プロローグ 出発までのこと
 
 今年も夏休みを使って旅行へ行ってきました。でもって、裏行動記録初の海外旅行編です。
 掲示板ではいろいろなウワサが飛び交ってましたよね。新婚旅行じゃないかとか、海外挙式なんじゃないの?とか。いやいや、ただの観光旅行ですよ。でも、行き先はただものではないかも知れませんが…。
 行ってきたのはインドシナ半島の中ほど、世界遺産のアンコール・ワットを擁するカンボジア王国です。あっ、いきなりそんなとこへ二人で… (^_^;)
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 現在のカンボジア王国の国旗にも描かれているアンコール・ワット。
 造営されて何世紀もの月日が経過していますが、今なお荘厳として残る遺跡群を目の当たりにし、その悠久の歴史を肌で感じに行きたいと思ってたんです。
 
 カンボジアといえば、アンコール・ワットをはじめとする遺跡群で観光拠点としての名前が上がってきたものの、まだまだ負のイメージが強く残されています。フランスからの植民地支配に終止符を打った第二次大戦後もベトナム戦争の戦乱に巻き込まれ、ポル・ポト政権による国民の粛清、内乱による難民問題と、印象としては最悪に近いものがありますよね。とても「ちょっと観光に行ってきます」っていう雰囲気じゃなかったですから。10年ほど前、僕が大学生だった頃、卒業していく先輩が「卒業旅行にベトナムとカンボジアに行く」という話を聞いて、「無事に(生きて)帰ってきてくださいね」と思ったもんです。
 とはいえ、時は移り行き、混沌としていた国家も再びシアヌーク殿下を長とする王国に生まれ変わり、観光面にも重きを置いた政策を行うことで海外からの観光旅行客を迎え入れる状態にまで復活したようです。日本のような完璧な治安を求めているならば厳しいでしょうが、海外旅行なんてものは多かれ少なかれリスクが伴うものなんですから、十分その安全範囲内であると思います(もちろん、個人としてできうる十分な注意は必要ですよ。誤解なきよう)。
 
 そのカンボジアへの入国にはビザが必要です。各種ガイドブックや先人方のホームページからの情報では到着の空港でビザが取得できるらしいことも書かれているんですが、「暫定措置なのでいつ空港で取得できなくなるかわからない」「時間がかかる」「取得費用をボラれる」との情報もあり、安全のために日本で取っておくことにしたんです。
 旅行会社にやってもらえば便利なんですが手数料がやたらと高いですよね。そこで東京の赤坂にあるカンボジア王国大使館で頂いてきたんです。お盆の東京旅行の間に(^^ゞ
 一人あたり3,000円。現地空港では20ドルらしいですから、安心料込み、というところですね。
 返却されたパスポートには「KINGDOM OF CAMBODIA - VISA」と銘打たれたシール状のビザが貼り付けられていました。早くもゾクゾクしてきました(でも、なんでこんなに真ん中のページなの? (笑)。
 
 航空券とホテル・バウチャーの手配はHIS難波支店でお願いしました。
 今回の旅行はアンコール・ワットのあるカンボジアのシェムリアップで8日間の滞在です。では、簡単にスケジュールの確認を。
 
9月7日(土) 関西空港 11:45(TG623)15:35 バンコク 18:00(PG942)19:00 シェムリアップ  ボレイ アンコール ホテル 泊
9月8日(日) ボレイ アンコール ホテル 泊
9月9日(月) ボレイ アンコール ホテル 泊
9月10日(火) ボレイ アンコール ホテル 泊
9月11日(水) ボレイ アンコール ホテル 泊
9月12日(木) ボレイ アンコール ホテル 泊
9月13日(金) ボレイ アンコール ホテル 泊
9月14日(土) 19:30(PG943)20:30 バンコク 23:59(TG622)
9月15日(日) 7:30 関西空港

 ※TG = タイ国際航空 / PG = バンコク エアウェイズ
 
 うわ、こうして書くと凄いですね。予定なんかあったもんじゃない…(^_^;)
 
 これを見てお判りの通り、ツアーじゃないです。それは判りますね。大概のツアーはベトナムやタイと組み合わせて1週間とかが多いんです。シェムリアップだけで7泊は、延泊をしない限りどんなツアーを探しても見当たりません。なぜに1週間? というのはこの後の文章を読んでもらえれば判っていただけますでしょうかね。とにかくアンコール遺跡群、偉大なんです。
 
 もう一つお気づきの点がありますか? そうです。関西空港発着なんです。最初は成田発着を予定していたんですが、関空発着の方が、成田発着よりも往復で2万円近くも安いんです。それに、成田発の午前便(11:00発)に乗ろうと思えば八王子を6時過ぎには出ないといけないんで…(笑)。 もっとも、大阪まで夜行バスで来てくれるんですから、どちらが楽かは悩ましいところではありますけどね。
 
 というわけで、待ち合わせは9月7日(土)AM7:30に南海難波駅(の前のUFJ銀行)。
 まもなくです。
 
 
 9月7日(土) 第1日目 海を越えて(大阪・関西空港→バンコク→シェムリアップ)
 
  鉄人28号とアーミーナイフ
 
 6時45分に自宅を出発し、7時16分に近鉄難波駅へ到着。難波駅地下ホームに到着した僕は大きなリュックを背負い、ジーパンに黒いスニーカーという出で立ち。前にはスーツケースを転がしながら歩く30代前半くらいのカップルがいました。さすがは関西空港への玄関口、なんばですね。そんなことを考えながら南海難波駅へと続く連絡通路を歩いていると、いつしか難波駅のコンコースに着いてました。いや、駅に来ちゃうとまずいんです。待ち合わせは外ですから。南海の難波駅は近鉄との乗り換えにしか使ったことがないんで、UFJ銀行へはどうやっていけばいいんだか…。いきなり聞いちゃいました。売店のおばさんに。
 果たしてこんな方向音痴で旅行ができるんですかね。最近とみに思います。
 
 目指すUFJ銀行を見つけ、一目散で歩み寄って腕時計を見れば7時25分。間に合いました。
 と、後ろから近づく彼女の姿が。
 待ってるのに通りすぎちゃうんだからビックリした、とのこと。え? ゴメン、急いでて気付かなかった (^_^;)
 こうして大きなリュックを担いだ二人組、無事に合流です。
 
 かねてからの予定通り、近くで朝食を取ります。その後南海の特急ラピートで関西空港へと向かうつもりです。こだわりではないんですがマクドナルドへ。旧大阪球場近くの店です。
 ホットケーキを食べながら旅行の話や最近のお互いの出来事なんかを喋ってましたかね。食べ終わった後、彼女の荷物の一部を僕のリュックへ。大した荷物の移動ではないんですが、お互いに荷物を一つにすることですべて機内に持ちこもうという目論見です。預けるのと機内持込では到着後の行動に差が出ますから。おまけに、持って入れば無くなる心配がない、というのもあります。
 土曜日早朝の2階のテラス席はすでに太陽が差し込み、日の当たる部分から暑くなりかけてます。カンボジアはやっぱり暑いんだろうなぁ、なんて思いながら席を立ちました。
 
 難波駅へ戻り、2階のコンコースにある窓口で特急「ラピートα 9号」の特急券と乗車券を購入。せめて旅の始まりくらいは豪華にね、と。
 自動改札機を通り、ホームに立つと、目にも鮮やかな青い車両が止まってます。楕円の窓が特徴的なスタイリッシュな車両。これが南海電鉄の誇る関空特急ラピートです。関空からの折り返し運用のための車内清掃中だったということもあり、先頭車両までホームを歩いてみました。
 ラピートの顔をご存知でしょうか。ブルーの車体に列車離れしたフェイスはよくアニメの「鉄人28号」に例えられてますね。鉄道に興味のない人達からもカッコイイという声を聞きますし、現に何人かのお客さんが鉄人をバックに写真を撮り合ってました。僕も彼女に写真を撮ってもらいます。今回の旅行のために新調した一眼レフカメラで…。
鉄人28号の運転席

 車内に入るとスッキリとしたデザインで、ラピートの名前に負けずスマートですね。さっそくシートに腰を下ろしました。
 ちなみに、「ラピート」の語源が何だったかを必死で思い出そうとしてたんですが、そのときは曖昧なまま終わりました。調べてみると「速い」という意のドイツ語だそうです。英語のrapid〔急速な〕の親戚、ってとこですかね。
 9時ジャスト、定刻に出発です。旅行に合わせてキッチリと合わせてきた時計と1秒と違わずに動き出すあたりは、さすが日本の鉄道です。
 難波駅出発早々に「次は終着駅、関西空港です」と聞いたのには妙な違和感を覚えたんですが、事実は事実。このラピートα 9号は難波から関西空港までの42.8kmを30分間、ノンストップで結びます。
 しばらく走って、お城の見える岸和田を通過。1週間後の14日・15日は全国でも有名になった岸和田だんじり祭りがあります。15日といえば関西空港に帰国する日なんで、途中で降りて見ていく? なんて話をしてたんですが、それも旅行が終わってからの話ですね。とにかく今はアンコールで頭がいっぱいです。
 泉佐野を通過し、弧を描くように本線から分かれるとほどなくJR関西空港線と合流します。りんくうタウン駅を通過すると次は終点、関西空港です。
 
 全長3,750mのスカイゲートブリッジに入り大阪湾の上を走ります。海上に造られた空港(っていう表現をしたら「浮いてるわけじゃないから『海上』はおかしくない?」と彼女に突っ込まれました。確かにそうですね)、もとい、大阪湾の沖に造られた空港ですから、長い橋を走って空港島へと渡ります。空港に近づき、ジェット機が列車と交錯するように飛び立っていきました。僕達が飛び立つのももうすぐです。
 ホームに降り立ち、二人並んで歩き出して、思わず目を合わせました。何を言いたいのかはすぐに判りましたね。周りのみんながスーツケースなり旅行カバンなりを手にしてるのに、二人は手ぶらでリュック姿です。「関西空港は国際空港だけど、国内線も多いから」と言ってみたものの国内旅行にこんな馬鹿でかいリュックを背負ってくのも変です(^_^;)
 この思いはゲートを渡り、4階の国際線出発ロビーに行くと顕著になりました。ここまで来れば見送りの客と空港職員を除いて100%海外旅行客ですから。でも、違うのは持ち物だけじゃなかったんです。「身なりも違うね」とは彼女の言葉。
 口元が緩んで思わず笑いがこぼれました。そう、僕達は典型的なバックパッカーなんです。
 お洒落な街を歩くでもなく、リゾートビーチで肌を焼くでもなく、遺跡を見に行くんですからね。こんな服装で十分です(笑)
 
 早速HISご指定の国際線南団体受付カウンターへ。ここでシェムリアップまでの往復航空券を受け取ります。バンコク乗り継ぎですから4枚ですね。受け取りが終わってから、気になることを思い出したんで再びカウンターへ。
 帰りのバンコクエアウェイズのリコンファームを今日、バンコクの空港で出来るかどうかを知りたくなったんです。でも、答えは「判りません」と。まぁ、そうでしょうね。そんな気はしてたんですが…。ならなぜここで聞くかですって? だって、バンコクじゃぁ、日本語で問い合わせが出来ないんですもん(笑)。
 受付嬢の案内に従って、早めにタイ国際航空の搭乗手続きを済ませることに。
 簡単な手荷物検査の後、チェックインカウンターへ。入口近くで案内を担当している女性係員が「エコノミーでございますか?」と聞いてこられたのは見た目判断+マニュアル教育の成果なんでしょうか。こんな格好でロイヤルファーストやロイヤルエグゼクティブに座られたらきっとタイ航空も迷惑なはずです (^_^)
 早めのチェックインが良かったのか希望通りの窓側です。
 
 手続きさえ済ませてしまえば、しばらく時間が出来ます。
 3階のショッピングフロアでウロウロしてみたものの、やっぱりリュックを下ろしてゆっくりしたいなぁと再び4階に戻り、ロビーの片隅にあるソファーに腰を下ろしました。背もたれを介して反対側には西欧(だと思う)の旅行者が何人か分の席をぶん取り寝転がってお休み中。
 並んで座りながら、大きなスーツケースをゴロゴロと引きずりながら足早に行き交う旅行者を眺めていると、悠然と9日間も旅行を続けられることがとても嬉しく、また、ありがたく感じてきました。何事にも感謝の気持ちが大切ですね。
 
 しばらく体を休めた後、いよいよセキュリティチェックへ。
 まずは僕自身のボディチェックとリュックのチェック。次に彼女。と、ここで不穏な動きが。
「アーミーナイフのようなものをお持ちですか?」
 「のような」って完璧に判ってるじゃん。ナイフや栓抜き、ハサミなんかが折り畳まれて一つになったものですね。
 預ける荷物があれば、その中に入れてしまえば問題のないモノなんですが、すべてを機内に持ち込むとなると厄介です。バンコクの空港で受け取れるように手続きをします、という女性係員は明らかに無愛想。乗り継ぎでシェムリアップまで行くというと、さらに無口になっちゃいました。
 しばらくテーブルの端で待たされてたんですが、どんどん時間だけが過ぎるもんですから、どこかへ行こうとする件の係員に、関空に帰ってくるので帰りまで預かってもらっててもいい、と申し入れると、また奥へ相談に。待たされた結果の答えが「それは出来ません」。それくらいは覚えておいて欲しいもんですが、代わりにシェムリアップ空港でナイフと交換してくれるという引換証(預り証)をもらいました。
 彼女はナイフ一つで手間取らせたことに恐縮してましたが僕は一向に構いませんよ。こうしてネタも出来たことですし。
 ともあれ無事にセキュリティチェックを通過し、次は出国手続です。
 
 その前に。
 あれ? 日本国の出入国記録カードって書いたっけ? あぁ、あのカウンターで書くのかな?
 なんて今ごろ言ってる僕は古いんですかね。カード記入用のデスクには「2001年7月1日より日本人の出入国記録カード(EDカード)は必要なくなりました」と書かれてます。
 その代わりと言ってはなんですが、電光掲示板の案内には「パスポートはカバーをはずしておいて下さい」のようなメッセージが流れています。僕はいつぞやのツアーで貰った近畿日本ツーリストのネーム入りカバーがかかっていて、理由もわからないまま、とりあえず外して待ちます。
 出国の手続そのものはEDカードがあろうがなかろうが大した違いはなく、僕も彼女も何の問題もなく国外脱出に成功です(結局カバーの件は判らなかったんですが、帰国後、出国処理の簡素化のため表紙裏の記号を機械で読み取って処理をしている事を知りました。そのためにカバーを外しておく必要があったようです。これも規制緩和の一環なんですって)。
 
 ターミナルビルから搭乗口へは赤い列車、ウィングシャトルで移動です。本日のTG623は40番ゲート。中間駅で下車となります。
 セキュリティチェックに時間がかかっていたこともあって、ゲートに到着した時には既に搭乗が始まってました。
 ここで最後の携帯メールチェック。その後、携帯電話の電源をOFFしました。これで日本からの連絡も来週日曜日まで不可能です。こんなにも長期間、携帯の無い生活を送ったことがないんで、僅かな不安と大きな開放感を味わいましたね。これで二人っき…、いや、そんな話はやめときましょう(笑)。
 
 小片に切り取られたボーディングパスをもらい、飛行機の機内へと向かいます。入口では綺麗なスチュワーデスが胸の前で両手を合わせて「サワディ カー」「こんにちわ」とタイ、日本の両国語でお出迎え。いきなり異国の雰囲気ですね。ロイヤルエグゼクティブクラスのシートに向かおうとする彼女に、僕とスチュワーデスとで「違う違う」とツッコミを入れ、パスに記載のシートへ。61Jと61Kです。
 搭乗したのはボーイング777型機。3-4-3のシート配列なんですが、部分的に2-4-2もあり、ちょうどその窓側、二人掛けシートです。横に見ず知らずの人がいないと気楽ですよね。
 さすがは大型機。僕のリュックも彼女のリュックも同じ収納スペースに納まりました。
 周りを見渡せば9割近くが日本人でしょうか。見た目に判んない人もいますが…。
 スチュワーデスの皆さんが忙しそうに歩き回る中、ゆっくりとシートに座り出発の時を待ちます。窓の外には空港で働く人々の姿や作業用車両が見えます。この見なれた日本の景色とも間もなくお別れです。期待が胸一杯に膨らんでいたその頃、機体がゆっくりと動き出しました。
 
 
  最後のジャパニーズフード
 
 ターミナルビルから滑走路の端まで自走し、滑走路を南側より北へ向かって助走します。
 シートに押さえ付けられる加速度を感じながら11時50分、関西国際空港を離陸です。
 右側を見ると彼女が座り、その横の窓からは大阪湾と大阪南部の陸地が広がってます。左に旋回し、右側下方には神戸の街並みが見えてきました。
 しばらくして客室乗務員や機長からの挨拶。メッセージは、まず英語。その次にタイ語。そして、それを日本人スチュワーデスが和訳。という順で続きます。
 
 この便はTG623便という名前ですが、同時にJL623便という名前も持ってるんです。JLとはご存知、日本航空のことですね。つまり、この便はタイ国際航空と日本航空の共同運航便なんです。JALの時刻表にも「TG(タイ国際航空)とのコードシェア便です。TGの機材、乗務員及び機内サービス(機内販売を含む)で運航いたします。JL(日本航空)の乗務員は乗務いたしません。」と書かれている通り、日本航空のお客さんもタイ国際航空のお客さんも、同じ乗務員から同じサービスを受けるということです。予約の際に、ふとした疑問を感じてHISの担当の方にお伺いしてみたんです。
「日本航空のチケットの方が高いですよねぇ…」
 って。
「おっ、なかなかいいところにお気づきになられましたね」
 JALの割引航空券である「前売り悟空21」でも、HISで購入したTGのチケットより数万円高いんです。
「でも、落ちる時は一緒ですよね(笑)」
「安く買ったタイ航空の客だけが先に落ちるということは無いんですが…」
「なにか違うんですか?」
「JALの方が、事故があった場合の補償額が高いですね」
「ははぁ…」
 なるほど。そういうことなんですね。JLにしろ、TGにしろ、飛行時間あたりの墜落事故件数の少なさは世界でもトップクラスなんで問題はないでしょう。でも、ちゃんと海外旅行傷害保険には入ってますよ。 (^_^;)
 
 安定した水平飛行になり、最初の機内サービス。放り出したくなるくらいアツアツのおしぼりとドリンク、それに豆のおつまみです。オレンジジュースを飲む彼女を見ながらアップルジュースを片手に豆をつまむと、アルコールの方が良かったのかなぁ…という気持ちがしてきました。でも僕は高高度を飛ぶ飛行機の中でアルコールが入るとかなり危なそうなので控えてます。何が危ないのかは想像にお任せしますが…(笑)
 
 先ほどの機長のアナウンスによれば、沖縄上空、台湾上空を飛行し、5時間ほどでバンコクに到着する見込みとの事。
 インドシナ半島って案外と近いんですね。TGの機内誌「SAWADEE」に載っている地図で見れば大阪から台湾南部の距離を約2倍すればインドシナ半島西部のバンコクですから。ちなみにカンボジアは日本から見ればバンコクの手前にあたり、幾分か引き返すような感じになります。
 
 外の風景が空一色になって久しい頃、お昼ご飯となります。
 時計を見ると11時前。ドリンクサービスの後くらいにタイ時刻に変更しておいたんです。日本時間との時差は2時間。つまり離陸後約1時間といったところです。
 彼女が小声で、
「朝ご飯じゃないよね?」
「うん、さっきのスチュワーデスは『ランチ・ターイム』って言ってたよ」
 到着が15時35分なんで、ひょっとしたら朝食と昼食があるんじゃないかと思ったりもしたんですが、さすがにそれはないようです。でも、案内によれば到着前に茶菓子のサービスがあるとのこと。それも楽しみだったりします。
 
 スチュワーデスの手によって配られたランチを見て、二人とも唖然。「あ・・・」
「これ、めちゃくちゃ日本食やん」
 魚と野菜の煮付けに蕎麦。それに幕の内弁当に入ってそうな俵型のご飯。もちろん上には黒ゴマがかかってます。
「タイの飛行機だからタイ料理かと思ってたのに…」
 完全なタイ料理を求めてたわけではないんですが、風味だけでもタイを味わえるかなぁと思ってたんです。
 唯一日本離れしてたのはモヤシのナムルくらいなもんでしょうか。
 でも、味付けはそれなりに美味しく、蕎麦もそばつゆをかけるタイプのもので、各料理とも日本食のエッセンスを集めたような感じがします。
「そりゃ、日本で食材を集めてるんだから日本発は日本食なんじゃないの?」
 というわけで、タイ風機内食は帰国便にお預けです。
 
 昼食後はお休みタイム。深夜便や時差が激しい地域へ向かう便なら強制的に居眠りタイムを設けた方がいいんでしょうが、こうした時差が2時間程度の昼間便でもシェードを閉めるように強要されるんですね。照明も暗くなりました。
 もっとも、明るいと液晶スクリーンの映画が見にくいという話もあるようですが。
 彼女は今朝の夜行バスで到着したということもあってすでにお休みモード。僕もここ数日の帰宅時間の遅さも手伝ってか眠たくなってきました。
 というわけで、おやすみなさい。
 
 目が覚めた頃、どのあたりを飛行していたでしょうか。
 しばらく飛行を続け、ついにインドシナ半島の上空に到達です。といっても窓の外に見えるわけではなく、スクリーンに現在位置が映し出されるのを確認するだけなんですけどね。
 機内の照明も通常に戻り、シェードを開ける客も増えてきたところでお茶菓子のサービス。
 お茶菓子というのでクッキーとかビスケットとかといった類のものとコーヒーもしくは紅茶なんじゃないかと思ってたんですが、配られたのは和菓子。餡が入った美味しそうな饅頭が、一つずつプチケーキのように透明のカバーがついたケースに収められてます。カップに注がれたのは日本のお茶。インドシナ半島の上空で和菓子を頂きながら熱いお茶をすするとは思ってもなかったです。
 振り返ってみれば、これがこの旅行最後の日本食となりましたね。次に日本食を口にするのは帰国後です。
 
 機内ではタイ入国に際しての入国カードが配られ、いよいよ近づいてきたことを感じさせられます。
 最後の思い出として、スチュワーデスから女性客にタイ航空のシンボル、蘭の生花にピンを付けてアクセサリーにしたものが配られてます。大きさもそこそこで綺麗な花です。彼女も早速バッグに取り付け。でも、ピン位置が茎に近いんで手を離すと花がぶら下がって見えちゃうんですね。それでも綺麗な花です。
 
 徐々に高度が下がり、バンコクの街並みが見えるほどにまで降下すると、目の前に大都会が広がってました。縦横に高速道路が走ってます。あれ?バンコクってこんなにデカイの? なんていう失礼なことを思いながらも飛行機は着陸体制に入り、バンコク・ドンムアン空港に無事到着です。
 
 
  これがハブ?
 
 滑走路から誘導路をゆっくりと走ります。左右に紫色の帯を巻いたタイ航空機がたくさん並ぶ、非常に大きな空港です。東南アジア各所へのハブ空港ですからね。
 完全に停止したところで降機準備。リュックを背負い通路を歩きます。
 最後のドア部分では民族衣装っぽい制服に身を包んだスチュワーデスが搭乗時と同じく両手を合わせて「コップン カー」「ありがとうございました」とご挨拶。タイに着いたっ、という感じがしてきました。
 で、予想通りターミナルへと続く通路には生暖かい陽気が漂ってます。少し歩けばビル全体の空調のおかげで涼しく感じてきたんですが、外気はどんなもんなんでしょうね。
 バンコクに到着して一息つきたいところですが、その前にシェムリアップ行きの搭乗手続を済ませてしまいましょう。
 2階のメイン通路に辿り着けば、「左・ターミナル2 右・ターミナル1」との案内(英語ですよ。以下同じ。多分)。機内の案内でタイ国際航空乗り継ぎはターミナル1、他社乗り継ぎはターミナル2との案内があったんですが、案内板の「ターミナル1」の文字の下に「トランジット」の文字があるんです。とりあえず、おかしいなぁと思いつつも右へと歩いたんですね。
 歩いた先にあったのは「ターミナル1」。タイ航空専門のカウンターです。でも、どこかに窓口があるんじゃないの?とか言いつつくるりと一周してみたんですけど、やっぱりタイ航空のみ。くるくる回っていても芸がないので、窓口で聞いてみよう、ってことになったんです。
「バンコクエアウェイズの窓口はどこですか?」
「どちらまで行かれますか?」
「シェムリアップです」
「それならあちらです」
 と指差されたのはターミナル2の方角。あ、やっぱり?
 ちなみにこの会話は彼女と窓口女性とのもの。僕は…英語は苦手です (^_^;)
 
 元来た通路を引き返し、歩きます。ひたすら歩きます。ずんずん歩きます。
 ターミナル1から何分歩いたでしょうね。これが一つのビルなんですから驚きです。
 各ターミナルの真ん中ほどにある入国審査のカウンターを横目にまだまだ歩くと、ようやく各航空会社のトランジットカウンターが見えてきました。その中にバンコクエアウェイズを発見。
 前には日本人らしい女性二人組が手続きしていて、首をかしげながら財布を手にしています。カウンターから離れる時も何やらブツブツと。何があったんでしょうね。
 その後に続いて、二人並んで航空券をカウンターの上に置きました。女性係員から
「パスポートをお願いします」
 と言われてハッとしましたね。前からそうなんですが、バンコク−シェムリアップはどうも国内線のような気がするんです。れっきとした国際線なんですよね。だから当然搭乗手続きにもパスポートは必要です。ボーディングパスをカウンターに置いて、係員が何やら言ってるんです(すみません、何言ってるのか判りませんでした)。
 要約すれば、一人3ドル、計6ドルが必要だ、との事らしいです(彼女談)。なんで?
「インシュアランス」と言ったようなんですが、航空保険料の事なんですかね。
 でも、これはHISで航空券を購入する時にすでに支払済みなんです。そのようなことを言ってみようかと思ったんですが、航空保険料じゃなくて空港使用料なら未払いなわけですし、カウンターレディは顔は笑っていても「早よ、出さんかい」って言ってそうですし、出さなきゃパスポートと搭乗券を渡してくれなさそうだったんで、とりあえず6ドルを財布から取り出しました。首をかしげながら…。
 レディは「サンキュ」というなり、バンコクエアウェイズのステッカーを二人の手の甲に貼り付けました。何に使うステッカーであるかの説明もなく…。いや、説明してたのかもしれませんけどね(笑)。
 
 とりあえずホッとしてカウンターを離れかけた瞬間、思い出しました。リコンファームの件を。
「来週の便のリコンファームはできますか?」
「チケットを見せてもらえますか?」
 チケットを見せます。
「あぁ。あっち(シェムリアップ)でお願いします」
「わかりました。ありがとう」
 と、ようやく英語で会話をしてみました。でも、やっぱりヒアリングは苦手です。
 
 これで搭乗時刻までは時間が出来たんで、ちょっと休憩。
 でも、ここには恐ろしく何もないんです。果てしなく長い通路があるくらいで、ショップはターミナル1近くに免税店が少しと果物屋。レストランらしいものも軽食を出す程度のものしかなく、正直なところショックを受けました。今夜は7時にシェムリアップの空港に着くものの、入国審査やら何やらでホテルに着くのも遅くなるでしょうし、そこから土地鑑のない街中を食事を求めてさまよいたくもなかったんで、ドンムアン空港で夕食を済まそうと考えていたんです。
 同じ食べるからにはタイ料理を。と期待していたんですが、ここにある軽食屋はサンドイッチやホットドッグが主体で、かろうじてヌードル系、ピラフ系の、ややタイ風を感じさせるメニューがある程度なんです。
 でもまぁ、食いはぐれてホテルでお腹を空かせるのもイヤなんで、とりあえず店内に。店内とはいっても壁があるわけでもなく、オープンスペースに丸いテーブルと椅子がいくつか並んでいてちらほらと外国人客が何やらを食べたりコーヒーを飲んでたりします。
 彼女はタイ風のラーメンを、僕はフライドチキン付きピラフをそれぞれ頼みます。レジで支払ってからカウンターで受け取るんですが、僕のがしばらく時間を要するようで、その間に彼女の麺を横取りしたり、おしゃべりしたり。
 横の席にも日本人カップルが座ってガイドブックを片手にコーヒーを飲んでます。
 
 しばらく待ってカウンターから呼ばれたような気がしたのでカウンターへ向かうと、チキンが乗ったピラフが置いてあります。黙って持ってっていいものか怪しかったんで、カウンターのおばさんに「これ、僕の?」という意味で、お皿を指差してから自分の鼻の頭を指差したら、売り物のポップコーンを頬張りながら、声を出すでもなく頭を下げて頷いたんです。そんな接客ってアリ? タイも意外と面白い国なんじゃないの?と思った瞬間です。
 
 食べ終わってからもしばらくテーブルに佇み、ゆっくりとした時間を過ごします。
 さて、そろそろ行きましょうか。
 
 長い長い通路を果てしなく歩き続けながら、
「関西空港はこの距離で列車を走らせてるんだよなぁ」
 と、僕。たまにある動く歩道も逆向きだったりで、背中のリュックがますます重たくなってきました。
 ようやくターミナル2側にたどり着き、案内板通り74番ゲートへ向かうべくエスカレータで3階へ上がります。
 そこで二人が目にしたものは…。
「あーーっ」
 通路の反対側まで延々と続くショップとレストラン。どんな土産物でも売ってそうで、どんな料理でも食べられそうな勢いです。
 2階にあった小さな免税店と軽食屋だけしか目にしていなかった僕ら二人に、ようやく正解が見えましたね。
「アジアのハブ空港だもん、あんなに小さいはずはないよね」
 搭乗手続きを終えても3階に上がろうとしなかったことをかなり後悔しながら74番ゲートへと続く階段を下りました。
「帰り帰り。帰りに寄ろう。これだけあれば楽しいよ」
 そう、二人はこのトランジットの時間をかなり無駄に過ごしてたのです (^^ゞ

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 ゲートに向かって階段を下りていく、というのも妙なんですが、セキュリティチェックの後、とうとう1階まで下りてきました。それでも、一応バンコクエアの女性係員が並んでいて挨拶をしながらボーディングパスを切り取ってくれます。で、ゲートの先にはバスが止まってました。あぁ、あれに乗るのね。
 これだけ歩いてまだバスに乗るのか…。デカい空港です。なるほどアジアのハブ空港です。
 シートがほとんどないこのバスに乗って、また彼女とともにビックリ。周りのほとんどが日本人なんです。バンコク−シェムリアップ線の乗客は日本人が多いと聞いてましたが、凄いですね。
「でも、観光客っぽい人が多いよね」
 みなさん小奇麗な格好なんですね。明らかにバックパッカーと言えるのは数人しかいないです。まぁ、僕の目の前には典型的とも言えるバックパッカー姉さんが立ってます。数週間は帰らないぞ、って感じが漂ってますからね。
 女性係員が乗りこんで発車したバスは、しばらく飛行機の間を縫うように走ります。
 バンコクエアウェイズのジェット機が見え、その陰にかわいらしいプロペラ機が見えてきました。まさかねぇ、と思ってるとそのそばにバスが止まったんです。バスの乗客が一同に「えーっ、これー?」
 かわいらしい魚や椰子の木のイラストが側面に書かれた双発のプロペラ機。機体も低く、機体後方に開いた口からわずか5段ほどのタラップが下りてきていて、それを上がりきればもう機内です。
 でも、あまりに愉快だったんで飛行機をバックに彼女の写真を撮っちゃいました。
 
 狭い機内に入ると英語とタイ語で歓迎を受けます。
 シートは2-2で、前から18番までが4列、残る19番が片側のみの2列ですから、合計で定員74名ですね。日本のYS-11形プロペラ機と同じようなもんです。
 シートに座る前に、まずはリュックを…。と持ち上げてみたんですが、どう考えても、どう頑張っても棚には収まりそうにないんです。観光バスの網棚がありますよね、あれくらいの幅しかないんです。仕方なく彼女のリュックだけを放りこみ、僕のは足元に転がしておきました。
 シートベルトを締めた頃、機内にアナウンスが。当然のようにスチュワーデスからのタイ語、英語の案内の後、男性に代わって日本語のアナウンスが始まったんです。通路に姿を現したこの人、完全な日本人の客室乗務員です。
 驚いた国際線ですよね。タイとカンボジアを結ぶ国際線なのに、見渡したところ9割近くが日本人で、おまけに日本人客室乗務員が日本語で案内までしてるんですから。恐るべしアンコール・ワット。恐るべし、旅行大好き日本人。
 
 プロペラが回転を始め、機体が動き出します。
 滑走路の端まで移動し、一時停止することもなく滑走路を助走し始めます。ここしばらくプロペラ機には乗ってないんでどんな感じだったかを忘れてしまっていたんですが、ジェット機よりもかなり助走距離が長く感じましたね。加速力が弱いということでしょうか。それでもちゃんと離陸しました(当たり前です ^_^;
 
 シェムリアップまではわずか55分ほどの飛行ですから、離陸早々カンボジア王国のビザ申請用紙と入国カード、関税申告書が配られています。
「ご不明な点がございましたら、お声をおかけくださーい」
 と日本語で触れ回る男性乗務員を見てると、とてもタイからカンボジアへの国際線とは思えなくなります。周りを見ても日本人だらけですしね。だいたい、タイ語はもちろんのこと、英語のアナウンスすら誰も聞いてないような感じがします。都市圏の地下鉄で流れる英語の車内放送並みです、恐らく。
 
 テーブルを広げて書類を書いている時、前方から何やら配布されているのが目に入りました。
「機内食?」
「みたい」
 機体のペイントを写したようなかわいいパッケージの箱にはラザニアをメインとした簡単な食事がセットされてます。
 まさか1時間のフライトで食事が出るとは思ってなかったんで食事を済ませてきちゃったんですが、量が多いわけでもなく、僕はドンムアン空港での食事とで、八分目になったかな?という感じですね。彼女はやや苦しそうでしたが…。
 
 食事を終えて書類の続きを作成しながら、ふと窓の外に目をやると遠雷です。すでに周囲は真っ暗で何も見えないんですがその中で雷がバシバシ落ちてます。うーん、さすがは雨季のインドシナ半島ですね。
 そのあおりか気流の悪い中を飛ぶとかで何度か揺れることもあったんですが、心配するほどでもなく、着陸体制に入るために徐々に高度を下げてきました。いよいよですね。日本を飛び立って9時間強、憧れの地、アンコール・ワットのシェムリアップに到着です。
 
 
  ようこそシェムリアップへ
 
 限りなく高度を下げているはずなのに
「暗くて見えない」
 と彼女。何にも見えないんです。恐らく下には大森林が広がってるんでしょうね。
 最終の着陸体制に入ってようやくちらほらと灯りが見えてきました。
「小(ちっ)さ…」
 これが街の全貌かと思うと、すんごく小さいです。でも、これがカンボジアの古都、シェムリアップなんですよね。
 
 なんとか無事に着陸し、滑走路の脇の適当な場所に止まりました。プロペラの回転も落ちてます。いよいよ上陸です。
 
 飛行機を降りるときもやっぱりタイ語での挨拶だったのにはいささか「?」が付きますが、カンボジアの大地を踏みしめた瞬間、どうでも良くなりました。
「着いたね」
「うん」
 少々興奮気味に空港の建物へと歩いていきます。皆さん揃ってゾロゾロと。
 
 暑いです。しかも雨季だから蒸し暑いです。でも、日本とは違うんですよね。
 建物に入れば涼しいのかと思えば、さにあらず。クーラーなんて効いてないです。というより、そんなものありません。
 プレハブチックな平屋の建物の中で、屋根から大きなプロペラが出ていて空気を掻き回してます。あんまり涼しくはなさそうですが。
 ビザをすでに取得している人の列に並び、入国審査。何を聞かれるでもなくパスポートの写真と僕の顔を見比べた後、ポンポンとスタンプを捺し、出国カードをパスポートにホッチキス止めして返されました。彼女も無事に通り抜け、入国手続き完了です。
 手荷物受取所もベルトコンベアなどはなくローラーが並んだテーブル状の物です。その横の係員らしき人に関西空港で作成してもらった預り証を見せると笑顔でナイフを手渡してくれました。ちゃんとバンコクで乗り換えていてくれたんですね。
 
 さて、と。バンコクエアの窓口を探さなくては。…といってもそんなものなさそうですね。出発ロビーの方にあるんじゃない? ということで到着ロビーから出発ロビーに移動しようと外に出たら、厳つそうな空港職員か警備か警察かのおじさん集団に行く手を阻まれました。なぜ、こっちに来るんだ? というような雰囲気だったんで、「リコンファーム」と答えると「in town」との返事。街でしろ、ってことですね。
 それじゃぁ、ホテルへ向かいましょうか。
 
 ホテルへは事前に英文で迎えに来て欲しい旨のメールを送っており、その返事も返って来てました。建物のそばでA4の紙に名前を書いて待ってるから、とのことです。
 外には沢山の客引きが待機してました。ホテルの客引きなのか、ホテルまでの移動手段(タクシー、バイクタクシー)の客引きなのかはわかりませんが、僕らはすでに決まってるんです。…でも、人が多すぎてわかんない… (^_^;)
「○○ホテル?」
 とかと聞かれたんで
「No、ボレイアンコール」
 と答えると、「こっちこっち」とばかりに教えてくれました。みなさん仲がよろしいんですね。
 待っていてくれたのはいかにもホテルマンといった感じの、すらっとした若いお兄ちゃんと、Tシャツ姿の若いおじさん。軽く挨拶を交わして車に案内されました。
 待ちうけていたのはトヨタのカムリ。へぇ、日本車なんだ。
 トランクにリュックを放りこみ、リアシートに二人並んで座ります。
 空港を出発してからはしゃべりかけられることもなかったんで窓の外を見てたんですが、しばらく田舎道を走った後、国道に出たようです。ただ、周りが真っ暗なんで何にも見えないんですね。沿道に街灯もないですし、ホントに暗いんです。
 建物の明かりが増えだし、シェムリアップの中心部に近づいてきたようです。でも、ここで僕の持っていたシェムリアップのイメージがガラガラと音を立てて崩れ始めました。想像していた以上にローカルです。もうちょっと近代化してるのかと思ってたんですけど昔ながらの雰囲気を残していて、かなり嬉しくなってきました。明日からの遺跡巡りと街歩きがとても楽しみです。
 
 中心部から数分で目的のボレイ アンコール ホテルに到着です。
 若い兄ちゃんが二人のリュックを持ってフロントへと向かってくれました。きっと重かったはずです(笑)。
 でも、無茶苦茶爽やかなんですよ、この人。
 フロントでチェックインを済ませると、件のボーイがリュックを持って先導してくれます。階段を上がり、3階まで案内されると、とある部屋の前で立ち止まり、持ってきたキーをノブに差し込んでガチャガチャやって、ドアを開けてくれました。
 ここで2人が、「え?」。ボーイは「Oh , No」。
 部屋の中を覗けば、スーツケースが転がり、ベッドの上には服があり、いかにも、というか明らかに他のお客さん部屋です。
 ちょっと待っててね、という感じで僕たち二人を手で制した後、ダッシュでフロントへ駆け下りていきました。
「はぁ」
「なんか、面白いとこだね」
「これがカンボジア、ということかなぁ」
 これくらいのミステイクは、日本人で言うなら人前でくしゃみをするくらいのもんだと思います。でも、初日だけに驚きましたけどね。
 
 角部屋からベッドメイキングを済ませたおばさんが顔を出してボーイに一言二言。その後、その部屋へと案内されました。照れ隠しの笑顔のまま、クーラーの説明をしてくれたりテレビを付けてチャンネルを回してくれたりして笑顔のまま去っていきました。
 あれ、でもこの部屋、ダブルじゃん。ツインで予約してたのに (^_^;)
 まぁいいか、カンボジアだし。
 
 と、ベッドに座って部屋を眺め回してると、ドアをノックする音が聞こえてきたんです。
 一応警戒してドア上部の丸い覗き窓から覗いて見ると、別のボーイが立ってました。鍵を外してドアを開ければ、申し訳なさそうな顔をしながら部屋を代わってくれないかとのお願いをされたんです。
 なぜ?と聞いても要領を得なかったんですが(というか、僕が理解できなかっただけなのかも)、プログラムのミスでダブルの部屋を案内してしまった、ということみたいです(彼女談)。それに移動する部屋の方がクーラーも良く効きますよ、とも言ってたみたいです(ダメだ、全然聞き取れてない…)。
 とにかく、グレードダウンするわけでもなさそうなのでリュックを持って移動開始です。
 案内された部屋は角部屋ではないものの部屋の大きさはさっきと同じで、造りも同じようなもんです。大きな違いはツインのベッドですね。このボーイも部屋移動の承諾をしてからはずっと笑顔です。翌朝の朝食場所を聞けば、部屋を出て、通路から見えるレストランを指差してくれますし、朝食だけではなく夕食もやってることを案内されました。「カンボジア料理、タイ料理、フランス料理、中国料理といろいろ。でも日本料理はないんです」とおどけた感じが、またいいですね。
 
 やれやれ、これで落ち着けるかな。と、思ってると、彼女が部屋の電話で日本へ国際電話をかける挑戦をしてました。電話の脇にある解説通りにかけてるのにテープの案内が流れるばっかりでつながらないんだとか。僕も試しに何度かトライしてみたんですけどやっぱりダメ。なんでも、シェムリアップに着いたら自宅に電話する約束をしていたようで、ぜひともかけたいところです。
 どうしたものかと思案しているところへ、当の電話が鳴り出したんです。恐る恐る受話器を上げて見ればフロントからでした。
「国際電話をかけられたいんですね」
 という出だしの電話だったんですが、途中で僕の語学力に限界が訪れてわけがわかんなくなっちゃいました。まぁ、なんとか、「部屋からはかけられないんでフロントまで来て欲しい」ということがわかったんで、事無きを得たんですが、明日からが思いやられます。
 一緒に1階のフロントへと出向き、日本へ電話をしたいことを伝えると電話番号を書くようにメモを渡されます。その番号を見ながらボーイがダイヤルし、受話器を彼女の手に。
 彼女もなんとか約束を果たしたと安堵の表情ですが、時間帯によらず1分7ドルは高いですよね。
 
 さて、これで長かった一日も終わりです。階段を3階まで上り、部屋に入ってドアを閉めました。
 アンコールの地で最初に見るのはどんな夢でしょうね。それでは、おやすみなさい。


2日目へ続く

(2002年夏・カンボジア 1日目・終わり)

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