(番外編:2002年夏・カンボジア/アンコール・ワット)
長い文章ですので、常時接続でない方は一旦接続を切られた方がよろしいかと思います。
第四日目 湖は果てしなく大きく タ・プローム〜トンレサップ湖
静かなる朝
ベッドで目覚めます。時計を手にすると、ベルが鳴る少し前でした。
何なんでしょうね。この目覚めの良さは…。
一人で苦笑いしつつ、対照的な彼女を起こしました。
窓からのぞく空は相変わらずのものですが、朝の天気が一日の天気を暗示するものではないということは、この三日間で十分に判ってますから、曇天であってもどうってことはないです。
今日も窓の下に見える庭では鶏と猫が動き回ってました。
いつ終わるとも知れない増築工事も始まってます。
では、僕たちも一日の活動を始めましょうか。
3回目の利用となるレストランでいつも通りの食事を頂きます。頼むのはいつもオレンジジュースとホットコーヒー。唯一変わるのがプレーンオムレツかスクランブルエッグか、というところでしょうか。もっとも、胃に入れば同じなんですが…。
毎朝毎朝のことなんで、レストランでの話はこれくらいにしておいて、とっとと出かけましょう。
今日はロビーで待つでもなく、ブンニーさんが姿を見せました。横に止まっているカムリは、昨日の泥がきれいに洗い流されていて、サッパリとしていました。ブンニーさんもサッパリとした青いTシャツ姿で、相変わらず若いのかオジサンなのかは不明です。そのブンニーさんに開けてもらった後部ドアから乗り込むとすぐに出発です。
昨日よりも若干遅いものの、国道6号線は朝の活況を見せています。一見無秩序に見える走りをしているバイタクの間をすり抜けるように二人を乗せたカムリは街の中心部へと進みます。今日の予定は昨日の続き、タ・プロームやスラ・スランを回ります。まずは…、英語がわからないのも相変わらずです(笑)
グランドホテルの前を北へと走り、アンコール・ワットへのチェックポイントに到着です。今日はチケット使用開始から3日目。日付とパンチ穴を見比べて、横にもう一つパンチで穴が開けられました。チケットを返してもらってアンコール・ワットへと続く道を北上します。
アンコール・ワットの雄姿を真正面に見て、突き当りを右へと曲がります。昨日と同じですね。
そこから走ること数分、本日最初の観光地に到着です。
「食らわん」
とブンニーさんが言ったように聞こえたここはプラサット・クラヴァン。クメール語の発音でプラサート・クロワンです。
昨日見てきた遺跡群よりも古い時代の921年に、ハルシャヤヴァルマン一世によって創建されたヒンドゥー教の寺院で、パッと見が赤っぽい遺跡です。バンテアイ・スレイの赤さはラテライトの特色でしたけど、ここの赤さはレンガの赤です。全てがレンガ造りの建物なんです。
まだ朝が早いんですが、西洋人の観光客が数組、遺跡を眺めながら散策してます。東洋系観光客は少なかったんじゃないですかね。
1メートルと数十センチの高さの壇の上に5つの塔が並ぶスタイルで、真ん中の塔が最も高くなっています。後の4つはピラミッド状に外側が低くなっているのか、漢字の「山」の字のように両端が高くなっているのか、今現在は崩れてしまっていて想像するしかないですね。
でも、この遺跡は外から眺めるだけでは、その魅力を十分に感じ取ることは出来ません。他の遺跡群の中においても稀なんですが、さほど大きいとも言えない塔の内側に浮き彫りが施されているんです。
まずは、真ん中の中央塔の中を覗いて見ました。
ここには壁いっぱいに彫られたヴィシュヌ神の姿が見えます。両足をグッと広げ、しっかりと2本の足で立つ姿はかなりの力強さを感じます。
一旦中央塔を出て、北の端にある塔へと向かいました。ここにはラクシュミーの立像が、これもくっきりと浮き彫りとして残っています。ラクシュミーは中央塔にいたヴィシュヌ神の妻で、腕が4本あります。しかし、腕が4本もあるのに気持ち悪く感じないのは仏像の持つ不思議な魅力ですよね。だいたい、千手観音とか、常識で考えてもおかしいじゃないですか。でも気持ち悪さは感じないですもんね。四天王は人間っぽいのに…。神仏は偉大なり、ってとこでしょうか。ちなみに、ラクシュミーは日本では吉祥天と呼ばれている結構ポピュラーな方です。
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「あなた、持ってる?」
「いいや」
「どうして?」
いや、そんなこと言われても…。(まさか、日本人旅行者はシャボン玉セットを携帯する、と思ってるってことはないですよね)
「シャボン玉は、日本では女の子のおもちゃだから」
全て、(一応)英語での会話です。一応ね。
それと時を前後して、その女の子が僕の右腕をつねったんです。
「痛っ」
と当然のごとく声を上げれば、
「アナタ、オカマ(日本語で)」
と。
「はぁ?」と彼女と顔を見合わせれば、もう一度つねって来たんです。
「だから、『痛い』って(日本語です)」
「アナタ、オカマ」
「どうして?」
「痛イ、ハ、オカマ」
ははぁ、なるほどね。男なら痛くても我慢するはずだ、ってことらしいです。カンボジアン男児は強いんですね。
誰かが彼女に、「あの人(僕のこと)は英語を喋れるのか?」って聞いてたんですね。彼女は正直に「少しだけね」と。最初のうちはほとんど何も喋ってなかったから疑問に思ったんでしょうね。そしたら僕に「英語、しゃべれる?」と。
子供相手の言葉遊びのつもりで
「No, I can't speak English.」
と笑いながら答えたら、まじめな顔で
「嘘つき!」
って…。オカマとか嘘つきとか、散々ですね(笑)
シャボン玉争奪戦が続いてるんで、彼女が新しいアイテムをリュックから取り出しました。いかにも日本的なデザインの千代紙です。何人かの女の子が、折り紙を見るなり
「知ってる!」
と、奪い取って何やら折り始めたんです。彼女は彼女で何かを折ってるんですね。
子供たちが作っていたのはお花。どこで教えてもらったのか、きれいな花です。折り紙の文化圏は広いんですね。
彼女が折ったのは鶴。女の子たちが鶴の出来上がりを待って、我先にと手を伸ばしてました。男の子たちまでもが彼女の折った鶴を欲しがり、彼女は鶴を折り続けることに。
それじゃぁ、僕も。と折り紙に手を伸ばしてみたものの、数年ぶりに折り鶴を作り始めると、何だか変になってきたんです。
「何を作ってるの?」
と聞かれ、「鶴だよ」って言いたかったんですけどね。「ツル?」…鶴って何て言うんだっけ?
「ん? バード」
…ダメだこりゃ。
何とか折り上げた鶴をそばの女の子に手渡します。1羽作れば後はやさしいモノ。次々に折っては手渡します。
もっとも、一瞬だけ、「何でカンボジアで鶴を折ってるんだろう」って思いましたけどね。
僕が着ているTシャツにはアルファベットが書かれてるんですが、シャボン玉をねだっていた女の子が、そのアルファベットを指差して、「これは何?」と聞いてきたんです。普通に答えちゃ面白くないんで
「ピアサー・オンクレット」
と答えてみたんですね。クメール語で「英語」のことです。
「Oh! You can speak Cambodian!」
と返ってきましたね。一応、通じたってことでしょうね。でも、まぁ喋れるってほど語彙は知らないんですが…。
「いや、これだけ」
と。その後、Tシャツのアルファベットを一文字ずつ指差して「これは?」を繰り返してたんで、一文字ずつ発音してあげました。でも、その時に思いましたね。この子たちは「英語を読めないんだ」って。こんなに流暢に英語を喋ってるのに。
これはある意味、僕自身にとってカルチャーショックでもあったんです。日本の英語教育は、まずアルファベットの読み書きから入りますよね。でも、この国では会話から始まるんです。読み書きできなくても会話でのコミュニケーションは十分取れる、ということでしょう。こちらの英語教育の方が進んでいるとも思えます。
そんなことを考えながら周りを見渡していると、いつしか何人かの子供たちが「ブレスレットを買ってくれ」だの「冷たい水はいらない?」だの言い出したんです。
彼女も僕も、「あ、結局はそういうことなの?」という気分になってきたんですが、一つだけ面白いネタを。
しつこく「コーラ、コーラ」と繰り返していた小さな女の子に、
「オッ(ト)・トラウ・カー・テー」
と。クメールで「必要ない(要らない)」ってことです。そしたら間髪入れずに
「わからない」って英語で。
それまでは、言葉を間違えても「…ん?」(何? もう一度言って)って感じだったんですけどね。ある意味、素直です(笑)
スラ・スランの観光のつもりが1時間近くも子供たちと遊んでたんで、そろそろ移動しなくちゃいけないですね。というのも、ここでブンニーさんからは「スラ・スランとバンテアイ・クディです」と言われていて、スラ・スランと道路を挟んだ向かいにあるバンテアイ・クディの両方を見てきてね、ってことだったんです。片一方で1時間ですからね、そろそろ移動しなくちゃ。
そろそろ行く、というと、子供たちは口々に
「明日の朝も遊びに来てね」
と言うんです。彼女と相談をしたんですが、確かにまだ明日の予定は立ててないものの、「来てもモノを買わされるのがオチなんじゃない?」ということに。遊んでいて楽しかったのは確かなんですけどね。それがなけりゃ、明日も来たいところです。
でも、「うん」と言わなけりゃ帰してくれなさそうだったんで、とりあえず、「わかった」と。
入口まで戻り、ブンニーさんに「バンテアイ・クディを見て来たいんですが…」と言うと、OKと。でも、スラ・スランで1時間以上も過ごした観光客は少ないでしょうね。
バンテアイ・クディに向かう二人の背中に女の子が
「アナタ、買ワナイ。ワタシ、悲シム」
と叫んだんで、彼女を指差しながら
「ワタシ、買エバ、コノ人、悲シム」
と、返しておきました。彼女はふふっと笑ってくれましたが、女の子は判ってくれたでしょうかね。
バンテアイ・クディは、スラ・スランとセットになっている遺跡で、いわばこちらが本体で、スラ・スランが付帯物という感じです。寺院があって池がある、という構図です。
もともとはヒンドゥー教の寺院として建てられたもので、ジャヤヴァルマン七世が仏教寺院として改修したそうなんです。
ナーガに迎えられて大きなテラスに上がり、そのまま内部へと入っていきます。
「田」の字状になった回廊の中央近くに新しすぎると思える仏像が鎮座してます。後世に持ち運ばれたものなんでしょうね、おそらく。色とりどりの三角形をした旗…何ていうんでしょうか、運動会のときの国旗のような感じで天井近くを渡されてるんです。幾筋も。いかにも日本とは異なる寺院スタイルですね。
とか言いながら徘徊していたものの、スラ・スランでのインパクトが大き過ぎたためか、正直なところ、あんまり印象がないんですね。彼女ともスラ・スランでの話をしてましたし。それに、ブンニーさんをあんまり待たせても悪いしなぁ、という気持ちも働いていたかもしれないですね。
そんなことで、あっさりとバンテアイ・クディを後にしました。
例の子供たちが待ち受けてるんじゃないかと思ったんですが、池のほとりで遊び続けているのか売店の中で休んでいるのか、姿はありませんでした。
ブンニーさんに迎えられてカムリに乗り込みます。明日の朝、子供たちは待ってるんでしょうか。さぁどうでしょうね。彼女は、「子供って、『いま』を楽しむのに一生懸命だから、明日の朝には忘れてるんじゃない?」って。確かに。そんな気がしますね。
呑み込まれた遺跡
次はいよいよタ・プロームです。ここはシェムリアップに来る前から興味のあった遺跡なんです。なぜか…。その理由は遺跡の保存状態にあるんです。
では、さっそく見て行きましょう。
このタ・プロームもジャヤヴァルマン七世によって創建された仏教の僧院だそうなんですが、ここはバンテアイ・クディとは逆に、創建時は仏教であったものが後にヒンドゥー教に改宗されたんだそうです。
西塔門からテラスを通って西門をくぐったところで、さっそく寄り道。塔門のある第一周壁に沿って美しいデバダーがいるらしいんです。うーん、まぁそれなり、ってとこでしょうかね。
周壁近くには遺跡を形作っていたと思われる石のブロックが散乱してるんです。これはこの周壁近くだけでなく内部も同じような状態で、まさに、発見されるまで、いや、発見されてからも手を付けられていない、と言う感じなんです。良く言えば状態の完全な保存、悪く言えばほったらかしなんですが、それを一番感じるのがスポアン(榕樹)が絡まった部分でしょうね。絡まる、なんて生やさしいものではなく、押し潰されると言った方が正しい、と感じるほどの勢いなんです。
例えれば、タコ…、ではないですね。もっと気持ちの悪い…、えーっと。映画『インデペンデンス・デイ』に出てきたエイリアン(名前はありましたっけ)のように、遺跡にねっとりと、しかもがっしりと(相反してる言葉のような気はしますが…)、喰らい付いているんです。
それにしても植物の生命力ってのは強いですよね。自分が成長するためなら、石のブロックをも跳ね飛ばすんですから。
これを見た瞬間は「あぁ〜」って、声にならなかったですよ。
そう、これなんですよ。僕が見たかったのは。
栄華を誇った王が建てた遺跡が崩れていく…。これは、単に「スポアンが成長して、(たまたま)遺跡が崩れた」というだけの現象ではなく、アンコール朝が力を失った「時」が「象徴」を壊してるようで、そう、まさに諸行無常の心なんですね。
その心を感じやすいのは東洋系の人々なのか、この遺跡は東洋人に人気があるそうです。
スポアンによる崩壊の仕方にもいろいろあります。塔門からすぐ近くの回廊にそびえるスポアンは、回廊に接している部分が数条の太い根に分かれているんですが、上はすらっとした幹ですから、鳥の脚のように見えるんです。巨大な鳥が回廊に着地した、という感じですね。他にも太い根が石の隙間を見つけて徘徊する様子が巨大な蛇に見える場所もあります。滝のように何本もの根が並んで降りているところも。それぞれに力強く、遺跡を押し潰してます。
このパワーに圧倒されながらも、回廊の中に入ってみました。中の構造は単純かと思いきや、もともとの構造がそうなのか、壁が崩壊したのか、行き止まりがあったりして、なかなか思うように進まないんです。しばらく歩き回っていて、「あれ?同じ場所?」という体験もしました(って、単に方向音痴なだけなんでしょうが…)。
回廊を出て、ちょっとした庭になっている部分があるんですが、そこに比較的大きなスポアンの樹があります。それを見た瞬間に誰もが感嘆の声を漏らすんですね。面白いほどに。しばらくそこに留まっていたんですが、十人十色というのか、いろいろな驚きを見ました。もっとも、「日常生活で見られないもの」を求めて旅行をしているんですから、何を見ても感動が無いようじゃ面白くないですよね。
ここで、ちょっと面白いものを発見。壁に彫られた飾り彫刻が顔に見える部分があったんです。そういうと気持ち悪いものを想像されそうですが、そうではなく、スマイルフェイスのような顔なんです。妙に可愛かったんで、写真に収めました。
中央祠堂近くではタ・プロームで最大のスポアンが見られました。この遺跡の中で最も有名なスポアンでもあるんです。
この姿はどう表現したらいいんでしょうね。植物ではなく、動物的な「動き」が感じられます。根が足のように見えますから、深夜になるとタコのようにニョロニョロと動き出しそう、とも思えるんです。そんなことは有り得ないですけどね。
それにしても、目にする観光客の多いこと。さすがに人気があるだけのことはあります。その中でもやっぱり多いのが日本人。というか、ほとんど日本人だったんじゃないでしょうか。この有名な樹をバックに写真を撮るために、順番待ちをしてましたからね。
中央祠堂よりも東側に、エコーが響くお堂があるということで向かってみたんですが、どれがそうなのか判らなかったんです。でも、そのお堂があると思われる庭も、日本人であふれていました。もちろん、全員が日本人と言うことではなく欧米人もいるんですが、なんだか目に付いちゃうんですよね。木に登って写真を撮ってもらってる若いのもいましたし。
崩壊した石のブロックに二人並んで腰を下ろしてちょっと休憩。
そういえば、もうすぐお昼なんですよね。太陽は高々と昇っているはずです。直射日光が眩しいというほどではないんですが、ムッとした暑さは続いています。持ってきたペットボトルの水でのどの渇きを癒してからも、しばらく座ってました。とにかく暑いんです。短パンにTシャツというスタイルの西洋人のお兄さん方もこの暑さにはバテ気味のように見えました。
昨日と違って雨が降らないんで、さらに暑く感じるんでしょうね。
中央祠堂の近くを通って、西塔門をくぐりました。高ぶる興奮がうだる暑さで相殺されているような感じですが、やっぱり来てみたいと以前から思っていただけのことはある魅力を十分に感じましたね。諸行無常と神秘的な雰囲気を味わえるタ・プローム、お勧めです。
入口近くの駐車場でブンニーさんと合流です。でも、車に乗る気配はなく、ここで昼食をとりましょう、とのこと。
遺跡の近くには屋台風の簡易食堂が軒を並べていて、その一つに入りました。
ビニール製のテーブルクロスがかかったテーブルにプラスチックで出来た背もたれ付きのイスがあるという組み合わせは、昨日のニャック・ポアン前の店と同じです。店の奥を見るような形で二人並んで道に背を向けて座りました。
メニューが運ばれてきます。メニューも昨日と同じような感じですね。
オーダーしたのは僕のフライドヌードルと彼女のヌードルスープ。飲み物は何にしましょうか。ちょっとした冒険心でメニューに載っていた怪しげなものを頼んでみたんです。怪しげすぎて名前も覚えてません (^_^;)
まずは飲み物が…。と思えば後ろでお店のお姉さんが、ごそごそと水の入ったクーラーボックスから缶ジュースを取り出してたんです。え?缶? と思ったんですが、間違いではなかったですね。テーブルの目の前にはジュースの缶が2本、並べられました。面白いのは、ストローが2本付いてるってことです。缶ジュースをダイレクトに口を付けて飲めるのは、日本のように衛生状態のいい国だけなんでしょうね。
でも、このジュース、いったい…何?
僕も彼女もわからずに頼んだんで、何が何やらわかりません。
とりあえず、飲めば判るでしょう、と、プルリングを引っ張ります。ここで感動が。最近の日本ではほとんど見かけなくなったちぎり取るタイプの缶の口だったんです。僕の子供の頃は当たり前だったんですけどね。いつのまにか、目にする缶のほとんど全部が環境問題への配慮か、引いて押し込んで蓋が外れなくなるタイプになってましたよね。「指輪!」とか言って遊んでいた頃を思い出します。あれ? それは女の子の遊びでは…。
それはさておき、ストローを突き刺して飲んだジュースはやっぱり謎です。
一つは「soy」だったか「beens」だったかの英語での表記があって、あぁ豆なんだなぁ、って判ったんですが、もう一つはいったい何だったんでしょうね。
二人で缶を交換し合って、お互いに首をひねってました。両方ともマズくはないんですけどね。
そうこうしている間に料理が出来上がったようです。
フライドヌードル。読んで字の如し、焼き蕎麦です。でも、日本で食べる焼きそばとはひと味もふた味も違ったものでした。味よりも、面白いなぁと思ったのが、インスタント特有の縮れ麺だったってことです。ヌードルスープはインスタントでもアリかな、と思ってたんですが焼きそばもインスタントなんですね。
ラーメンにしても焼きそばにしても、インスタントをそのままではなく、ちゃんと調理をして立派な料理にするのは屋台ならではだなぁって思います。
いや、待てよ。と思いました。屋台だけではないのでは? と考えたんです。
日本ではインスタントもの、っていうと手を抜くためにあるような印象ですよね。でも、ここカンボジアでは、あくまでも料理の素材の一つでしかないんじゃないかと。良く言えば「日持ちのする素材」ですね。
タイや中国といった周辺国から麺類を輸入するなら乾麺の方が都合がいいはずです。さらに便利になったのがインスタント麺なんじゃないでしょうか。そういう意味では、町から外れた屋台でも気軽に麺類を食べられるようになったインスタント文化に感謝、と言うところでしょうか。
食事を終えて、出発前にお手洗いに行っておこうと公衆トイレっぽいところへ入ろうとしたんです。その時、その傍から小学校低学年くらいの男の子が声を上げながら姿を現しました。トイレの入口までは1mほどのところにいたし、男の子まではかなり離れてたんで、とりあえず入っちゃおうと思ったんですね。でも何かを喋りかけてくるんです、クメールで。入口の壁にクメール語と英語とで500リエルらしきことが書いてあったんで、先に金を払えってことを言いたいんだろうなぁ、と
「OK、OK」
と、判ってんだか判ってないんだか判らん返事をして先に用を済ませたんです。
そしたらきっちり待ってましたね。出てくるのを。
「プラム・ローイ・リエル?」
と聞いたら、
「バー(ト)」と。
一応、会話になってるじゃないですか (^^ゞ
ちなみに、「500リエル?」「うん」、っていう会話です。
500リエルを手渡して彼女の待つ店まで戻ってくると、ブンニーさんも来てました。それでは出発しましょうか。
車をほんの少し走らせて到着したのがタ・ケウです。
タ・ケウ(クメール語でタ・カエウ)は、この短い語で「クリスタルの古老」という意味を持っているそうで、アンコール・ワットよりも1世紀近く早い11世紀の初頭にジャヤヴァルマン五世によって造られかけた寺院です。妙な表現をしましたが、このタ・ケウ、実は未完成なんです。といっても、当然ながら現在進行形ではありません。王の突然の死によって造営が中止されて以来、そのままの状態で放置されているんだそうです。
寺院のすぐそばに立ち、全貌を見渡すように見上げると、他の遺跡とどこか違った雰囲気を味わえます。
どこかで感じたのと似た雰囲気なんですが…。バイヨンだったでしょうかね。ゴツゴツとした石の質感がもろに出ていて、要塞を見ているような感じです。
雰囲気はともかく、見た目の形は、プレ・ループにもあったように、真正面から見ると3本の塔が見えるアンコール・ワットにも似たスタイルです。中央祠堂の東西南北に一つずつ塔があるんです。
でも、それらの遺跡と異なるのが(雰囲気の違いを生み出している理由でもあるんですが)、壁面彫刻が見られないことなんです。石を積み上げて、彫刻が施される前に造営が中止されてしまったので、こんな形になったんですね。だから他の完成された遺跡とは違うように感じるわけです。
東楼門を抜けて数段の階段を上がると目の前に牛の像が現れました。聖なる牛「ナンディン」です。面白いことに、この石造のナンディン、このあたりの僧侶が身に付けているのと同じ法衣をまとってるんです。でも、普通の仏像ならともかく横たわってる動物ですからね。人と同じようにはまとえず、首のあたりにくるっと一巻きした後、体を這わすように垂れ下がってるんです。これじゃ、どう見てもマフラーです。
オレンジ色のマフラーをする聖なる牛ナンディンと記念撮影をしていたら、現地の子供たちが二人、こちらに近付いてきました。
この牛を指差して
「コゥ」
と言ったような気がします。僕は素直に「あぁ、ナンディンって雌牛(Cow)なんだ」って思ったんですが、今思えば「コー」、クメール語で「牛」のことだったのかも知れません。
ともかくそこで同調してしまったのが運の尽きか、その後、この少年二人のペースに巻き込まれることになったんです。
カンボジアの小学校の制度はどうなのか知らないですが、日本で言うと小学校3〜4年生のお兄ちゃんと、小学校1年生くらいの弟という感じですね。その小さい方の男の子は「らんま1/2」と日本語の文字とキャラクターのイラストが描かれたTシャツを着てました。なぜだ…、って感じです。
ナンディンのすぐ横には中央祠堂へと続く高く険しい階段が控えています。アンコール・ワットにあった階段よりは幾分か緩やかですが日本の常識からすれば急な階段です。少年たちの誘導のままに上へと進みます。その道中、このタ・ケウについての講釈を垂れてくれます。もちろん、英語です。
全部を理解したわけじゃないんですが、大方は「何を言いたいのか」は判りました。一言一句訳していたわけではありません。
登りついた頂は、暑い昼下がりの中にあって、さわやかな風が吹き抜けています。少年たちも、Tシャツの裾をパタパタとさせ、中に気持ちのいい風を送り込んでました。「ふぅーっ」と一息。やっぱり長年住んでいてもこの気候は暑いんですね。
上から見る景色は、緑の森と遺跡群で、いい感じです。
一息ついてから、彼らのガイドが再開です。緑の向こう側に遺跡が見えるんですが、それについて何やら説明をしてくれてます。実はあんまり判らなかったんで、黙ってたんですね。そしたら、指差して、
「見える?」
と。「あぁ、はいはい」と返事。見えるのは見えるんですけどね。
「あっちに…」
と、遠くを指差して、別の遺跡の話をしてるようです。
「見える?」
「…?」
「あれは、見えない」
「…。」
彼らの解説はまだまだ続いてます。中央祠堂の中央に祀られた仏像を拝むこともなく、もと来た階段の上に立ち止まりました。
話はだんだんとエスカレートし、時折混じる日本語の中に、とんでもない言葉が出てきたんです。何の説明をしてるときだったでしょうね、男性と女性、という説明をしようとしている時に、男性のことを○○○、女性のことを○○○、って(…これじゃなんだか判らんなぁ。でも18禁サイトじゃないんで書けないです)。
彼女と顔を見合わせて
「何で、こんな言葉知ってんの?」
と。大阪弁で言うところの「よぉ言うわぁ」って感じで「ふふっ」と笑えば、
「笑ワナイ、オ兄サン」
「…(はぁ、すんません)」
「大事ナ話ネ」
その後、彼らはスタスタと階段を下り始めたんです。で、僕たちもつられる様に下へ。でも、とてもじゃないですけど、スタスタとは行かないですね。先に下り立った彼らが声をそろえて
「日本人、急グ、危ナイ」
と。この急な階段を身軽に上り下りできるようになるには、かなりの鍛錬が必要なんでしょうね。
再びナンディン像の前に戻り、下りてきた東側から、休憩するでもなく南側へと回りました。
で、ここで案内は終わり。
僕らの意に反して、というか、当然かのようにガイド料を請求してきたんですね。彼女とともに、
「まぁ、そうだろうねぇ」
という気持ちで財布に手を伸ばしたんです。でも、ちょっと待った。二人で2ドルは高すぎやしないか?
「2人で1ドルね」
と、言いながら1ドル紙幣を兄貴分に渡すと、「彼にも」という感じでせがまれるんです。でも、僕たちにすりゃ頼んだわけでもないし…、という気持ちですから、この程度で十分だと思いますよ。一人1ドルなら、時間給に換算すれば日本の大学生並みになっちゃうわけですし。
ゴネても貰えないと判ると彼らは石段の上から身軽に、次なるターゲットを求めて走り去っていきました。
「何だったんだろう」
これが僕たち2人の共通した感想です。
だって、タ・ケウは、何の装飾も施されない、飾らないゴツゴツした遺跡として、もうちょっとじっくり見たかったところでしたからね。でも、今さら、もう一度中央祠堂に上るか、と聞かれれば「もういい」と答えますから、ブンニーさんが待つカムリに向かって歩いていきました。
次に向かうはトマノンです。
タ・ケウから数分のところにあります。下ろされた所にあるトマノンと、その向かいにあるチャウ・サイ・テボーダを見てきてください、とのこと。
トマノンは楼門から続く周壁に囲まれた中には中央祠堂と拝殿、経蔵がある程度の規模の小さな寺院です。
祠堂や拝殿は、それぞれに基壇の上に建てられているため、他のピラミッド式の高層遺跡より低いとはいえ、見上げるような感じです。地面の上に立ち、中央祠堂と一緒に写真を撮ってもらおうとしたんですが、僕の身長では、基壇の方が高いんです。
階層のない寺院とはいえ、やはり市民よりも一段高いところに置く事で威厳、尊厳を保っていたのかもしれないですね。
うっすらと草の生える敷地内を歩きながら、壁面に描かれたデバダーを眺めつつ、中央祠堂と拝殿の周りを一周しました。午後の照りつける太陽に、ほんの少しくらくらとし、道路向かいのチャウ・サイ・テボーダへと歩きました。
こちらもトマノンと同じく12世紀の初頭にスールヤヴァルマン二世によって建てられたヒンドゥー教寺院で、敷地面積も構造もスケールは同じようなものです。でも、大きな違いとして、東塔門から東楼門までの数十メートルにわたって空中参道があることが挙げられます。これはバプーオンで見られたものと同じようなものなんですが、残念ながらこちらは修復工事中なんですね。
空中参道を支える柱だけが並んでいる状態です。危険防止のためにロープが張られていて中央祠堂のある楼門側へは行けそうになかったんで、ここから眺めるだけに留まりました。
比較的大きなクレーン車などが停車しているのが見えたんですが、作業そのものは止まっているようです。時刻は1時すぎ。まだお昼休みが続いているようです。
偉大なる湖・トンレサップ
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